(デリー)成人同性間の同意に基づく性行為を違法とする現行インド法の合法性が問われている訴訟について、デリー高等裁判所の判断がまもなく示される。本判決に先立ち、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、インドの新政権は法律改正に反対するのをやめるべきだ、と述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、世界中の「ソドミー法」の大多数が、英国植民地支配の時代遅れの遺物に過ぎない実態をとりまとめたレポートのヒンズー語訳を本日発行した。

報告書「植民地時代の遺物:英国植民地主義における『ソドミー法』の起源」(90ページ)は、「自然界の理法に反した性交渉」を、最高刑で終身刑としているインド刑法(IPC)第377条が、英国の社会支配の道具としてインドに課された事情を詳述している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、インド政府に、問題視されている規定の改正を支持するよう求めるとともに、同様の古い法律を維持し続けている他の国の政府に対しても、成人同性間の同意に基づく性行為の犯罪化を廃止する方向で速やかに改革を行なうよう求めた。成人同性間の同意に基づく性行為を犯罪化するインド刑法第377条は、プライバシーの権利及び差別からの自由という個人の基本的権利を侵害している。

「世界最大の民主主義国であることを誇りにしている国が、なぜあからさまに人権を侵害する法律を維持し続けようとするのか?」、とヒューマン・ライツ・ウォッチのレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー(LGBT)の権利プログラム調査員 ディピカ・ナスは述べた。「活発なLGBT人権保護運動を含む、市民活動が盛んな国が、なぜ、植民地時代の道徳法を守り続けているのか?」

2009年6月12日から25日にかけて、コルカタ(Kolkata)市、チェンナイ(Chennai)市、ムンバイ(Mumbai)市、バンガロール(Bangalore)市にあるインドのLGBT権利保護団体は、本レポートと高等裁判所に係属中の裁判に関して、議論やイベントを主催。それらのイベントを主催したグループは、 "Pratyay Gender Trust and Sappho for Equality in Kolkata," "Shakti Center in Chennai," "LABIA in Mumbai," "Alternative Law Forum, Sangama, and LesBiT in Bangalore"の各団体である。デリーの高等裁判所は、今夏にも判断を示すと考えられる。

インド刑法は、英国が植民地に対して作成した最初の包括的刑法であり、イギリス帝国全域で、刑事法のモデルとされた。インド刑法第377条も、アジアやアフリカ全域の同様な法律のモデルとなった。成人同性間の同意に基づく性交渉を違法とする国々の多数は、旧宗主国からそうした法律を引き継いだ。しかし、中には、現在になって、ソドミー法は、植民地化される前からの伝統と民族のアイデンティティであったと主張している国もある。

現在デリー高等裁判所に係属中の事件(同性愛行為の非犯罪化を目指した事件)で、インド政府は、ソドミー法は伝統的文化価値を保護するものである、と主張してきた。この主張に反し、ヒューマン・ライツ・ウォッチの本レポートは、インドが西側から輸入したのは同性愛行為ではなく、同性愛を嫌悪する法律のほうであることを明らかにしている。植民地時代の道徳法は、ヒジュラ(男性から女性へトランジェンダーした労働者階級の人びと)のような人々を、公共の場に現れるだけで逮捕できる「犯罪者集団」に分類していた。

「インド刑法第377条は、他の旧植民地国の同様の法律に似て、英国植民地時代の遺物である。」とナスは述べた。「植民地からは独立したインドのような民主国家が、ソドミー法のような非民主的で差別的な法律を、強制されたものではなく伝統として扱っていることは遺憾である。」

更に、インド刑法第377条や他の英国植民地時代のソドミー法は、同意に基づく性行為と同意のない性行為や、或いは成人間の性行為と子どもへの性的虐待を、区別していない。結果として、インドの現行法は、多数のレイプ被害者や、虐待の被害に遭った子どもたちを、効果的な法的保護の外に放置している。

カルナタカ市民の自由のための住民連合(People's Union for Civil Liberties-Karnataka)が作成した2001年の事実調査レポートは、警察が刑法第377条をつかって人権を侵害している実態を明らかにした。警察が、刑法第377条をつかって、ゲイやバイセクシャル男性を脅し、個人を違法に逮捕し、レズビアンや同性間性交渉を行っている女性を脅迫している実態を明らかにしたのである。デリー高等裁判所で係属している裁判事件の原告たちは、刑法第377条が、HIV/エイズ陽性の労働者に嫌がらせなどの人権侵害を行なうために利用されてきたこと、とりわけ、既に社会の片隅に追いやられたヒジュラのような共同体のメンバーを標的にするために、利用されていると主張してきた。

1994年、市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約:ICCPR)についての解釈権限を有する国連規約人権委員会は、ソドミー法はプライバシー権と差別されない権利を侵害していると断じた。

「マレーシアからウガンダまで、各国政府は、この法律を、市民団体や言論の自由に対する制限のためや、政治的な敵の信用を失墜させ、生活を破滅させるために使っている」とナスは述べた。

英国のソドミー法類似の法律を今も維持し続ける旧植民地の国や地域は以下に掲げる国である。

●アジア太平洋地域:バングラデッシュ、ブータン、ブルネイ、ビルマ、インド、キリバス、マレイシア、モルディブ、マーシャル諸島、ナウル、パキスタン、パプアニューギニア、シンガポール、ソロモン諸島、スリランカ、トンガ、ツバル、西サモア(同じ英国法を引き継いだ政府であるがソドミー法を廃止した国は、オーストラリア、フィジー、香港、ニュージーランド)

●アフリカ地域:ボツワナ、ガンビア、ガーナ、ケニア、レソト、マラウィ、モーリシャス、ナイジェリア、セイシェル、シエラレオネ、ソマリア、スワジランド、スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ

カリブ海の旧英国植民地11カ国が、インドに押し付けられたソドミー法ではない、別の英国モデルに由来するソドミー法を維持したままである。