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タイ:軍による秘密拘禁 停止すべき

「赤シャツ隊」逮捕で深まる「失踪」への懸念

(ニューヨーク)-タイ国軍当局は、すでに2週間近くにわたって秘密裏に拘禁されている政治活動家の所在を明らかにするとともに、確たる容疑で立件できないなら速やかに釈放すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。タイ軍事政権は、恣意的逮捕および拘禁を即時停止すべきである。なかには、いわゆる「強制失踪」に該当する事案もある。

5月28日の夜、第14軍管区 (Military Circle)の兵士らがクリスダ・クナセン氏(27歳)を逮捕。チョンブリー県ムアンチョンブリー郡で新政府派の反独裁民主統一戦線(以下UDD)、通称赤シャツ隊に対する踏み込み捜査が行われた際のことだった。同氏の家族の話では、地元の軍指揮官たちが現在にいたるまで彼女の所在を明かすことを拒否しており、弁護士の接見や家族の面会も認めていないという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは、「軍事政権による秘密裏の逮捕・拘束が、さらに事態を悪化させている」と指摘する。「犯罪容疑で立件されることもなく拘禁されているクリスダ氏などの活動家たちは、速やかに釈放されるべきだ。」

クリスダ氏はUDD支持の著名な活動家。2010年にアピシット政権(当時)との政治対立のせいで訴追・投獄されたUDDメンバーや支持者に、法的支援・人道支援を提供するキャンペーンで精力的に活動していた。

クリスダ氏の拘禁は国軍が発動した戒厳令(1914年)が認める7日間の行政拘禁期間をすでに超えている。彼女が立件されて、チョンブリー県などの拘置所に移送されたという正式通知は全く受けていないと、家族は話す。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、権力の座を追われた与党タイ貢献党の政治家やUDDのメンバーが恣意的に逮捕され、外界との連絡を絶たれて隔離拘禁されているという報告を受け続けている。

6月9日の午後4時ごろにはバンコクのワントーンラーン区で、率直な物言いで知られる与党タイ貢献党党員かつUDD指導者のシントン氏(51歳)が兵士らによる家宅捜索を受けた。同氏はミニバンに乗せられ、連れ去られた。拘束場所は明らかにされていない。家族がマスメディアに語ったところによると、家宅捜索の前に出頭命令も逮捕状も出ていなかった。国軍はこれまで、同氏の逮捕に対する根拠や所在について何ら情報を提供していない。

国際法が定義する「強制失踪」とは、政府関係者あるいは国家公務員が個人を逮捕または拘禁したにも拘わらず、その者を拘束している事実を否定し、若しくはその者の消息や所在を明らかにしないことである。「強制失踪」は、タイ政府も加盟している「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(ICCPR)が禁止する様々な基本的人権の侵害行為である。例えば、恣意的逮捕および拘禁、拷問ほか残酷で非人道的あるいは品位を下げる待遇、そして超法規的処刑などである。

タイ国軍は5月22日にクーデターで権力を掌握すると、国軍の全部門と警察からなる国家平和秩序評議会を設置。以来軍は、200人超の与野党政治家、活動家、ジャーナリストほかを拘禁している。拘束理由は、前政権への支持、君主制への不敬・挑発、クーデター反対デモや活動への参加などだ。

多くの人が釈放されたとはいえ、国軍は更なる人びとに新たな出頭命令を出し続けている。出頭命令に応じると通常、尋問されたのちに軍事基地などの公式な拘禁施設でない場所で、外界との連絡を絶たれて隔離拘禁されることが多い。国家平和秩序評議会の出頭に応じなければ逮捕・訴追されたり、出入国管理局の出国禁止リストに載せられたりする。

前出のアダムズ局長は、「タイ国軍は、正式手続きを経ない恣意的な逮捕や、拘束場所を秘密にするのをやめる必要がある」と述べる。「所在が明らかにされないので、捕まっている人びとの身の安全に対する懸念は深まるばかりだ。」

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