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ソチ五輪:IOCが人権侵害に対応

労働者への未払賃金支払い、アシュティル村への水道供給は3月からか

(モスクワ)ソチ五輪会場やインフラ建設で働いた労働者に賃金未払いがあると繰り返し申し立てがあった件について、国際オリンピック委員会(IOC)は、ロシア政府に調査を行うよう説得するなど、前向きな動きを見せた。

IOCの働きかけで、ロシア政府は830万ドル(約8億3,000万円)相当の給与遅配分を支払うと約束。一方、ロシアの人権団体「メモリアル」の「移住と法ネットワーク」プログラムは、労働者約700人から賃金未払いの申し立てを受けたと話している。この700人の多くが、給与遅配などの人権侵害について先に苦情を申し立てた労働者600人と重なる。この申し立ては同ネットワークとヒューマン・ライツ・ウォッチが2013年10月にIOCに伝達したものだ。今回の政府とIOCの合意は遅きに失しており、ロシアが五輪準備を始めて以来、類似の人権侵害の被害に遭った大勢の労働者は救済されない。ソチ冬季五輪は2014年2月7日に開幕した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのジェーン・ブキャナン欧州・中央アジア局長代理は「出稼ぎ労働者の搾取は、きらびやかなソチ五輪に暗い影を落とすものだ」と指摘。「我われは、IOCがロシア政府を説得し、結果、政府がとうとう行動を取ることになったことを歓迎する。しかし賃金を受け取っていない労働者の問題については引き続き憂慮している。」

2月9日付けのヒューマン・ライツ・ウォッチ宛書簡でIOCは、ロシア政府が調査を行い、五輪施設建設現場で働く多数の労働者に賃金未払いが起きていることを明らかにしたことを認めた。この書簡はまた、アシュティル(Akhshtyr)村の現状に対しヒューマン・ライツ・ウォッチが提起した問題にも回答している。同村は、5年にわたり上水道の供給が止まり、五輪施設建設の結果、ソチの他の地域から事実上完全に孤立した状態に置かれている。また、五輪準備作業により居住できなくなった住宅に暮らす数十人について、当局が移転を認めない件についてヒューマン・ライツ・ウォッチが示した懸念にも回答があった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2008年以来、IOCに対し、ロシア政府の2014年ソチ冬季五輪開催準備にかかわる人権侵害について、一貫して懸念を表明してきた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは2009年以降、ソチで広範な調査を敢行。正当な補償のない強制立ち退きのほか、五輪による環境破壊などを記録したジャーナリストや市民運動家への脅迫や拘束、五輪会場や関連施設建設での出稼ぎ労働者の搾取などを調査・記録してきた。

2013年2月発行の報告書でヒューマン・ライツ・ウォッチは、五輪主要施設の多くで人権侵害が起きていることを明らかにした。フィシュト・オリンピック・スタジアム、メイン・メディア・センター、ジャーナリスト宿泊施設、選手村などだ。記録した人権侵害は以下の通りである。

·     給与未払い、または給与支払の大幅な遅滞

·     雇用契約書や契約書のコピーを雇用者が渡さないケース

·     長時間労働。超過勤務手当のない12時間交代制のシフト勤務 

·     雇用者が提供する宿泊施設が過密で、食事が不十分なケース

·     パスポートなど身分関係書類の不当な没収

本報告書は、人権侵害に加担しているか、人権侵害が発生した建設現場に関係している多数の企業名をリストアップしている。本報告書に対する公式の回答のなかでIOCは、ヒューマン・ライツ・ウォッチの情報が、IOCやロシア政府が行動を起こすには不十分だと主張している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがIOCに対し、ロシアでの五輪開催について人権侵害に関する情報を提供したのは、IOCが、「五輪準備にかかわる人権侵害を示す証拠を受け取った場合には、それを開催国とのあいだで議論する」と公約したからだ。IOCが遅ればせながら行動を取ったことには意義があるが、対応が早ければもっと多くの労働者に恩恵があっただろうと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「移住と法ネットワーク」のソチでの代表者Semyon Simonov氏はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、労働者700人から苦情を受けており、その多くが給与支払いを受けていないとして、10月にIOCに提出された労働者600人のリストに載っている人たちだと述べた。大半はすでに帰国している。

「2009年の段階で、ロシア政府はソチで働く労働者への責任を果たしていなかったことは明らかだ」と、前出のブキャナン局長代理は指摘。「IOCはロシア政府に対し、5年前の段階から五輪開催国の義務について継続的に喚起し、具体的な行動を取るよう強く働きかけるべきだった。」

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