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(2014年1月14日) 一部の過激な反政府武装組織が、シリアの法律に基づかない、厳格で差別的なルールを成人女性と少女に課している。シリア北部と北東部の支配地域で、一部の組織が定めている厳格なルールにより、女性の権利が侵害されているだけではなく、日常生活の根幹まで制約されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2013年11月と12月に、シリアからの難民に聞き取り調査を行い、イラクのクルディスタン地域で43人に直接面会し、またトルコにいる2人に電話でインタビューを行った。難民たちによれば、過激派武装組織の「ヌスラ戦線」と「イラク・シリアイスラム国(ISIS)」が、独自のイスラーム法解釈を強要し、成人女性と少女に頭部を隠すヒジャブと全身を覆うアバヤの着用を義務づけ、従わない者を罰すると脅している。一部の地域では、成人女性と少女について、定められた服装を身につけていない場合には、公共の場での自由な移動や労働、通学を禁止するという、差別的な措置を課している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利局長リーズル・ゲルントホルツは「ヌスラ戦線やISISなどの過激派組織が、シリアの女性の子どもも大人も享受していた自由を揺るがしている。これはシリア社会の長年の強みだったのに」と指摘した。「自分たちの権利が消えていくのを耐えねばならない成人女性と少女に対して、過激派組織が約束する勝利とは一体どのようなものなのか。」

ヌスラ戦線とISISが女性に課している規制は、成人女性や少女の日々の生活に広範な影響を与えている。教育を受けたり、家族を養ったりするだけでなく、生きていく上で欠かせない基本的な物資を入手することすら難しくしている。これらの組織が女性を誘拐しているとの複数の報告もあった。ある難民の話では、近所に住む若い母(夫は死亡)と幼い子供3人が戦闘に巻き込まれて死亡した。男性の付き添いなしでの外出が禁じられていたため、逃げることを躊躇したためだ。

イラクのクルディスタン地域とトルコで生活するシリア人難民はヒューマン・ライツ・ウォッチに、ヌスラ戦線とISISは、2012年9月から2013年11月にかけて、以下の地域で成人女性と少女の服装および行動に規制を課していた、と報告。アレッポ市のシャイフ・マクスード区、アレッポ県のアフリンとテル・アラン、ハサカ市、ハサカ県の都市ラース・アル=アイン、イドリブ県のイドリブ市、ラッカ県の都市テル・アビヤドだ。当該地域には、スンニ派、シーア派、アラウィー派、シリア正教会、アルメニア教会など、さまざまな信仰が存在する。

聞き取り調査に応じた人びとによれば、ヌスラ戦線とISISの兵士は、女性は厳格な服装規定に従うべきであると主張。ヒジャブとアバヤの着用を義務づけ、ジーンズや体の線を表す衣服の着用、化粧を禁止している。また、イドリブ市、ラース・アル=アイン、テル・アビヤド、テル・アランでは、女性が男性親族の付き添いなしに人前に出ることが禁じられている。こうした規則に従わない女性と少女は処罰すると脅され、公共交通機関の利用、通学、パンの購入ができなかった事例もある。

イドリブ市、テル・アビヤド、テル・アラン出身者はまた、ヌスラ戦線とISISによって、これらの地域では女性の自宅外就労が禁じられたと話している。

聞取り調査に応じた人びとが、様々な過激派武装組織のメンバーをいつでも完全に区別できるとは限らない。しかしメディア消息筋やNGO「シリア人権監視団」による報告は、ヌスラ戦線とISISがこうした規制を課しているという、難民の主張を裏付けている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、今挙げた地域に存在するとされる、これ以外の過激派武装組織が、規制の実施に関与しているのかについては確認できていない。

シリアには国教は存在せず、憲法では信教の自由が保障されている。シリア刑法と身分法(婚姻、離婚、相続などを扱う法律を指す)には、成人女性と少女にとって差別的な規定が存在するものの、憲法では男女平等が保障されている。2009年6月に起きた大衆的な抗議行動の結果、身分法をもっと後退させようとする政府の試みは挫折した。聞取り調査に応じた人びとはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、以前は成人女性も少女も、仕事や通学など市民生活に参加し、移動、信教、良心の自由を行使するのにほとんど問題はなかったと語った。

難民たちによれば、ヌスラ戦線とISISは、アフリン郡の町ジャンディレス(Jindires)、ラース・アル=アイン、テル・アビヤド、テル・アランで、男性の服装と移動にも制限を加えている。ただし成人女性と少女に特に大幅な制限が課されたことで、全員の話は一致している。テル・アビヤドとテル・アランの元住民は、武装組織は男性についても、ジーンズと身体の線が出るズボンの着用を認めなかったが、女性への厳格な服装規定に比べればゆるいものだったと述べた。

聞取り調査に応じた人びとによれば、ジャンディレス、ラース・アル=アイン、テル・アビヤド、テル・アランで成人男性と少年に課された移動制限は、夜間外出禁止令など住民全体に対する移動制限の一環だった。2012年10月にはラース・アル=アインで、2013年7月から8月にかけてはテル・アランで、ヌスラ戦線などの過激派武装組織は午後5時以降の全面外出禁止措置を命じ、地域を掌握した。服装や移動の自由に関する規制が、成人男性と少年にだけ課された事例はない。

服装と移動の自由を不当に制約することは、当該個人の権利を侵害するものであり、もちろん撤回されるべきだ。しかし成人女性と少女だけに適用され、影響を及ぼす規制は差別でもある。

ヌスラ戦線とISISの司令官は、服装規定の義務と移動の自由への制約を含む、女性の権利を侵害する全ての政策を、直ちに、そして公式に撤回するべきだ。当該組織が課した厳格な規則に従わない、服装あるいは行動をする成人女性と少女を処罰するとの脅迫も停止すべきだ。また、成人女性と少女が有する、プライバシーと自己決定の権利ならびに、表現、信教、思想、良心の自由への不当な干渉をやめ、国際人道法を遵守するとともに、女性の服装を規制し、仕事、教育、公共の場へのアクセスを制限する部下を処罰しなければならない。これらの組織に影響力を持つ関係諸国政府も、女性への差別的規制をなくすよう圧力を掛けるべきだ。

「ヌスラ戦線やISISなどの組織は、一種の社会運動であると自称する。だがその関心は、成人女性や少女に社会的な利益をもたらすのではなく、彼女たちの自由を減らすことにあるように見える」と、前出のゲルントホルツ局長は指摘する。「ソマリアやマリなど世界各地で見られるように、こうした規制は多くの場合、成人女性と少女の権利を全面否定する動きの始まりなのだ。」

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