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(ニューヨーク)-クラスター弾の使用を否定するシリア政府軍の主張とは裏腹に、空軍がシリア5県全域の町にクラスター弾の投下を続けていることを示す新証拠が続々と出てきている、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチがまとめたデータから、過去2週間にクラスター弾の使用がどんどん増加していることが分かる。軍は人口密集地域に高性能の爆発物や破砕爆弾、更には即席の「たる爆弾」(訳注:ドラム缶に爆薬と金属を詰めたもの)まで投下するなど、反体制派が掌握する地域に対する空爆作戦を強化しており、クラスター弾による空爆はその一部だといえる。

2012年10月14日にヒューマン・ライツ・ウォッチは、シリアがクラスター弾を使用した事実を公表した。それを受けたシリア軍は、クラスター弾の使用を否定すると共に、そのような兵器は所有していないと反論した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは引き続きシリア空軍がクラスター弾での空爆を続けている新証拠を入手しており、被害者や他の住民、クラスター弾を撮影した活動家への聞き取り調査などで裏付けている他、クラスター弾による新たな10の攻撃の残骸を映した64本のビデオ映像と写真の分析からも、新証拠の真正性を確認済みだ。攻撃を受けたのは次に挙げる5県10市町村内とその近郊。イドリブ県の北部行政区:SalkeenとKfar Takharim;ホムス県のEastern al-Buwayda、Talbiseh、Rastan、Qusayr;アレッポ県のal-Bab;デリゾール県のal-Duwairとal-Salheya;ダマスカス近郊のEastern Ghouta

ヒューマン・ライツ・ウォッチ武器局局長のスティーブ・グースは「クラスター弾が町や村に降り注いでいる証拠が積み重なっている今、シリア政府の否定は意味を成さない」と述べる。「シリア空軍は国内全域の反体制派支配地域に住む一般市民に対して、クラスター弾ほか爆発系兵器を投下することにより、恐怖による支配を敷いているのだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、クラスター弾が使用された爆撃現場35カ所以上について情報を入手。現場の 位置関係 からクラスター弾が広範に使用されているのが分かる。爆弾残骸の ビデオ映像や写真 は、シリア空軍による少なくとも46発のクラスター弾が使用されたことを示す。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、空爆による不発子弾を少なくとも136発確認しており、これらは一般市民に対する重大な危険を引き起こしている。空爆、使用された爆弾、不発弾それぞれの集計は入手可能な情報から確認が可能だが、おそらくは実際の数の一部を表すのみとみられる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、Eastern al-Buwayda町でクラスター弾の被害にあった2人、更にRastan、Talbiseh、al-Bab、Qusayrの住民に話を聞いた。住民はクラスター弾による空爆を目撃したり、あるいは空爆直後の現場を撮影しており、ヒューマン・ライツ・ウォッチに直接その映像や写真を提供してくれた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが精査した64本のビデオ映像は、10月にユーチューブに投稿されたもので、シリア国内での新たなクラスター弾爆撃による残骸を映し出している。ヒューマン・ライツ・ウォッチの専門家が確認したクラスター弾は、爆発性小型爆弾(子弾)を内蔵しており、ヘリコプターを含む航空機から投下された模様である。AO-1SCh対人子弾150発を内蔵するものと、PTAB-2.5M対装甲車両子弾を内蔵する2種類のRBKクラスター弾を確認した。

精査したビデオ映像のほとんどにおいて、クラスター弾とその子弾に物理的な損傷がみられ、これは爆弾が空から投下されたことを示している。これらクラスター弾には、航空機が爆弾を懸架する際の取り付け器具「サスペンション・ラグ」の消えかけた塗料や、投下後に爆弾から外れる牽引棒の連結部位が見える。ビデオに映っている子弾2種が持つ安定翼の物理的損傷は、空気圧が加わったことと着弾時に変形したことを物語るものだ。着弾時の衝撃で、クラスター弾とその子弾が地面に固く突き刺さっている様子も多く映っていた。

一般に投稿されたビデオが明らかにする一つひとつの爆撃の確認のため、ヒューマン・ライツ・ウォッチは投下された子弾の型式、各クラスター弾と子弾に記載された製造所および生産データ、空爆地点の特性、発見された個々のクラスター弾とその子弾が与えた損傷の詳細などを分析した。いくつかのケースでは、目撃者や被害者への電話による聞き取り調査で空爆に関する更なる裏付けも獲得。こうした分析事項を用い、一つひとつの空爆事件に関するデータベースを構築し、シリア軍が過去2週間にクラスター弾の使用を激増させている実態を明らかにした。

クラスター弾と内蔵された子弾にあった識別標識の精査と共に、旧ソ連製クラスター弾マニュアルの比較検討によって、それら爆弾が1970年代〜80年代初頭に旧ソ連の国営弾薬工場で製造されたことが明らかになっている。確認された子弾のほとんどはAO-1SCh対人破砕子弾で、すべてが標識番号55に合致する旧ソ連のある工場で製造された模様だ。

10月15日にロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、シリア国内で「ロシア製」クラスター弾が使用されたことを否定。使用された「確証」はなく、クラスター弾の出所を立証するのは極めて「困難」だと述べている。

保有するクラスター弾をシリアがいつどのように入手したのかは公に知られていないが、RBKクラスター弾は旧ソ連によって大量に生産され、輸出されていた。IHSジェーン社のような軍用機材手引専門の権威ある出版社と同様に、ロシア軍事産業複合体が発行した資料も、RBK系統のクラスター弾は、モスクワにあるバザーリト国営研究製造エンタープライズ社によって販売されていたと記載している。RBK-250系統のクラスター弾や、AO-1SChとPTAB-2.5Mといった子弾が旧ソ連以外の国で製造されたことはないと一般にされている。

前出のグース武器局長は、「ラブロフ外務大臣が今回の『ロシア製』クラスター弾に限定して、自らの否定発言を正当化しているが、これまでに集まった証拠のすべてが、シリア政府のヘリコプターやジェット機が投下しているクラスター弾が旧ソ連製であることを示している」と指摘。「ロシアがすべきことはシリア国内でのクラスター弾使用に対する懸念の表明であり、旧ソ連製クラスター弾が使用されている強力な証拠に疑問をはさむことではない。」

最近、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、ノルウェー、カタールを含む数カ国の政府が、シリアのクラスター弾使用を非難している。

グース武器局長は「クラスター弾などの爆発系兵器がもたらす危険から一般市民を保護することに関心を寄せるすべての国々は、明確に反対意見を表明し、空爆作戦の停止をシリアに要求すべきだ。」

Qusayr近郊のEastern al-Buwayda村と他の村々への空爆

Qusayr近くのEastern al-Buwayda村へのクラスター弾による空爆で、少なくとも4人が負傷したと、実際に負傷した2人を含む地元住民数名が証言した。活動家の地元住民ハムザ(Hamza)によると、村に対する最初のクラスター弾空爆は10月9日に起きた。ヘリコプター1機が60歳の女性ウム・ナジル(Umm Nazir)の自宅近くに一発を投下したという。ハムザは10月9日に使われた爆弾の残骸の映像をヒューマン・ライツ・ウォッチに送付。ヒューマン・ライツ・ウォッチの専門家が、その残骸をクラスター弾のものと確認している。医師はウム・ナジルの両脚を野戦病院で切断しなければならなかった。隣人の1人がその空爆を次のように話していた。

「午後3時頃、小さな爆発音が1回、それから連続して爆発音が聞こえたんだけど、それほど大きな音じゃなかった。爆弾が通りに落ちた時、家も揺れなかった。クラスター弾が落とされた周辺の建物には小さくて浅い穴があいていた。クラスター弾は建物が10ある通りに落ちたんだ。建物には人が住んでいたが、ほとんどはけがをしなかった。女の人がウム・ナジルがけがをしたって叫んだ。私らが爆弾の尻尾を見つけたところから20メートル離れて彼女の家はあった。30歳の息子さんも同じ家にいて、やっぱりけがをしていたよ。破片で体中けがをしてたけど、深くもひどくもなかった。」

ハムザがウム・ナジルと身元を確認した高齢の女性が、両脚を切断されて仮設病院に横たわっている様子が映った2本のビデオを、彼はヒューマン・ライツ・ウォッチに提供した。

住民たちは10月16日午後5時半頃、Eastern al-Buwaydaに1機のヘリコプターが別のクラスター弾を投下したが、被害者はいなかったと話していた。住民が10月16日に投下された爆弾のものだと指摘する残骸が、もう1人の地元活動家に撮影されている。送られてきたその映像をヒューマン・ライツ・ウォッチは精査し、それがクラスター弾であるのを確認した。その空爆現場を撮影した地元活動家の1人は、現場は10月9日の爆撃地点から約300メートル離れていたと話している。

「爆弾が落ちた場所を見に行った時、直径5ミリほどの小さな穴が壁中に開いている建物を見ました。道路にも建物にあったのと同じサイズの小さな穴がいくつもありました。穴は付近全体に、200メートルは広がっていたと思います。爆弾の尻尾がある建物に落ちて壁を破壊したけれど、そこには誰もいなかったんです。爆弾のもう半分は、建物の近くではなくて50メートル離れた通りで見つかっています。」

地元活動家の1人はヒューマン・ライツ・ウォッチに、自由シリア軍の兵士たちが爆撃された日に、15発の不発子弾を発見したと話していた。その活動家によると、兵士たちはハンマーを使って信管を外し、子弾を不活性化したというが、これは極めて危険な行為だ。ある目撃者は別のクラスター弾が近隣のAbel村にも落とされたと話していたが、残骸の映像は入手できていない。

地元住民らによれば、その翌日の10月17日午後4時半頃〜5時までの間に、1機のヘリコプターがEastern al-Buwaydaにクラスター弾を投下、若い男性3人が負傷したという。そのクラスター弾による爆撃で負傷したと話す男性2人、ハキム(27歳:姓は非公開)とシリア軍を離反したアイハム(22歳:姓は非公開)に、ヒューマン・ライツ・ウォッチは聞き取り調査している。ハキムは次のように話した。

「ある家の戸口の所に立って、ヘリが俺たちの上で空中停止しているのを見ていた。そしたら突然ヘリから何かが落ちたのが見えたんだ。どうすればいいのか分からなかったから、オリーブ林に向かって走り出した。急に短く連続する爆発音が聞こえたかと思ったら、破片で背中、両腕、わき腹をやられているのに気付いた。野戦病院に運ばれたけど、深刻なけがではなかったよ。」

アイハムはヒューマン・ライツ・ウォッチに、ハキムの後ろにいたので自分の方が重傷だったと話した。「誰かが機関銃を撃っているみたいだった。背中をやられたんだ。」負傷した彼らが野戦病院で傷の手当てを受けている様子が映っている、証言と一致するビデオ映像を、彼らはヒューマン・ライツ・ウォッチに見せてくれた。ある地元活動家によれば、自由シリア軍の兵士たちが10月17日の空爆現場から4発の不発子弾を発見し、不活性化させたという。再三にわたり、これは極めて危険な行為である。

Qusayr町出身のアブ・ハビブ(Abu Habib)はヒューマン・ライツ・ウォッチに、10月18日午前11時に1機のヘリコプターが同町にクラスター弾を投下したと証言した。

「[僕がいた]メディアセンターはヘリが爆弾を落とした所から300メートル離れていた。友達たちが小型の爆弾を見つけたと言うので、自分も加わったんだ。僕たちが見つけた小型の爆弾はアルラマン(Al Rahman)モスクの近くにあった。爆弾は100メートル四方に散らばっていた。地面に突き刺さっているのを15発も見たよ。住民は珍しがって、爆弾を地面から引き抜こうとしていた。僕は危ないって言ったんだけど、皆は聞いてくれなかった。小型の爆弾は長さ20センチ、直径は2センチくらいだった。」

「それから自由シリア軍が来て、爆弾を引き抜いて安全にしてから持ち去ったよ。ヘリが爆弾を落とす前に他のヘリから砲撃があって皆隠れていたんで、空爆でけが人は出なかった。爆撃で建物のどこが壊れたかは分からない。だって建物は戦車砲やらヘリのロケット弾やらで、すでに壊されたり、ダメージ受けていたから。」

アブ・ハビブは不発子弾10発が写っている1枚の写真を送ってくれた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは彼の話に対して独自の裏付けを取れていない。

al-Babへの爆撃

10月15日午前5時頃にジェット戦闘機1機が、al-Bab市にクラスター弾1発を投下したという情報も、ヒューマン・ライツ・ウォッチは得た。ある地元活動家によると爆弾は、以前自由シリア軍が使用していたものの、戦闘員は2カ月前に立ち去った建物の近くに着弾。負傷者は出なかったという。彼は爆弾の写真をヒューマン・ライツ・ウォッチに複数送付。同時に同市の民間協議会が構成した特別委員会によって、不発子弾は不活性化されたと話していた。

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