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カンボジア:政府批判者や抗議参加者に重い有罪判決  遺憾

米国など援助国・機関は東アジア首脳会議への出席を再検討すべき

(ニューヨーク)-日本をはじめとする米国、EU、国連などのカンボジア援助国・機関は、有罪判決を受けた著名な政府批判者であるモン・ソナンド(Mom Sonando)氏などの活動家を即時釈放するよう強く求めるべきだ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2012年10月1日、プノンペン刑事裁判所は、「分離独立」を目指す運動に加担したというでっち上げの容疑でソナンド氏に20年、地元活動家3人に15〜30年、ほか3人にも5年の実刑判決を下した。

ソナンド氏(71歳)はフン・セン首相の統治を長らく批判してきたベテラン批判者で、これまでにも非暴力の政治活動を理由に2度逮捕されている。彼がオーナーであるビーヒブ・ラジオは、カンボジアで政治的に一番独立したラジオ局で、同国における人権と民主主義発展に重要な役割を果たしてきた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは、「フン・セン首相は過去20年にわたって数々の茶番裁判を画策してきた。しかし今回、証拠のかけらさえもなしにモン・ソナンド氏に長期刑を言い渡したことは、更なる堕落というべきである」と指摘。「カンボジアの裁判所は政治まみれだ。フン・セン首相が自宅で裁判を行っているようなものと言っても過言でない。」

ソナンド氏の有するラジオ局は多種多様な視点の放送枠を提供している。具体的には、カンボジア市民社会、HIV/AIDSとの闘い、妊産婦の死亡率、人身売買、女性の権利運動、男女平等、政治経済の透明性、公平で持続可能な開発、労働者の権利、環境保護、法の支配、選挙教育、選挙監視などの放送がされている。カンボジアの放送メディア(たとえばアプサラ・テレビやバイヨン・テレビなど)は、政府がほぼ完全に掌握。後者のバイヨン・テレビはフン・セン首相の娘の支配下にある。ソナンド氏は人権と民主教育を促進する小さなNGO「民主協会(the Association of Democrats)」の代表でもある。

フン・セン首相は6月26日、「民主協会」がフン・セン首相と与党カンボジア人民党に批判的であるとし、その団体の代表であるソナンド氏がクラティエ州のプラマ村を本拠地として分離独立を目指す運動に関係していると主張。当時国外にいたソナンド氏の逮捕を要求した。

プラマ村では、カンボジアの政治家と密接な関係にあるゴム会社が土地を収奪しているとして、住民が抗議運動を展開していた。これに対し、5月15日〜17日にかけて治安部隊が村を包囲して攻撃。その際14歳の少女ヘン・チャンザ(Heng Chantha)が射殺された。少女殺害容疑の犯人が逮捕されていないのはもちろん、捜査が行われた様子さえない。フン・セン首相は、村民5人に対する法的手続に介入。罪状は、国内に独立国家を建設せんとする運動の地元リーダーだったというもの。フン・セン首相は、ソナンド氏がこれの後ろ盾だ、とした。民主協会と5人は、クラティエ州内の「自治地域」建設を目指したほう起という、いかなる陰謀への関与も否定。公判でも、カンボジアからの分離独立を意図したという証拠は全く提出されなかった。

ソナンド氏は2012年7月15日朝に自宅で逮捕され、刑法第6条項で訴追された。米国務長官ヒラリー・クリントンASEAN(東南アジア諸国連合)の地域首脳会議に出席した後カンボジアを去った2日後のことだった。

前出のアダムス局長は、「分離独立運動の存在やそうした運動に対するソナンド氏の関与を立証する信頼できる証拠は、プノンペン裁判所にまったく提出されなかった。それにもかかわらず、信じ難く厳しい判決が下された」と述べる。「ソナンド氏などの活動家たちは、政治的な意見を平和的に提起したために投獄されているのであり、即時釈放されるべきだ。」

これまでも、政府批判者に対する攻撃や嫌がらせが続いてきた。4月26日にも環境保護活動家チュ・ウッティ(Chut Wutty)が、憲兵隊と企業警備員の一団にココン州における不法伐採に関する取材活動をとがめられた後、射殺されている。彼の死をめぐる正確な状況は不明のままだが、政府と司法機関による殺人事件の捜査は、最も責任を負う個人を保護し、不法な経済活動を更に隠ぺいすることを意図しているようにみえる。この殺人事件は、不法伐採などの違法行為を暴こうとする市民の活動に大きな委縮効果を与えた。

プノンペン裁判所は5月24日にも73歳のおばあさんを含む女性13人に、2年6カ月の刑を言い渡した。女性たちは、プノンペンのボエンカック地域でフン・セン首相関係者と中国人投資家らが進める開発計画が原因の強制立退きに反対し、住民に適切な再定住先を求める運動に関与していた。国内外からの圧力により、控訴裁判所は6月27日、一審の有罪判決自体は支持したものの、13人の女性を釈放した。

裁判所は8月と9月、カンボジア組合総同盟会長で、カンボジアで最も強い信念を持つ労働運動指導者として知られるロン・チュン(Rong Chhun)氏に繰り返し出頭を命令した。その際、プノンペン近くの衣料工場の労働者の違法ストライキを扇動したという申立てがあったとして尋問。同氏は投獄の危険にさらされた。

今回のソナンド氏ら活動家への有罪判決は、2013年の国政選挙が迫るなかで言い渡された。また、野党党首サム・ランシー氏も、でっちあげの容疑で欠席裁判にかけられて12年の刑を科され、亡命を余儀なくされている。

前出のアダムス局長は、「こうした厳しい実刑判決は、カンボジアが急速に一党支配国家になりつつあることを示す警鐘である。援助提供国・機関は、これをしっかり認識すべきだ」と指摘する。「フン・セン首相は27年にもわたり権力の座についており、自国がASEANの『問題国家』として、ビルマに取って代わりつつあることも気にならないようだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本をはじめとする援助提供国・機関に対し、人権状況の悪化に緊急に取り組むと共に、カンボジア政府との関係を漫然と「いつも通り」に進めることをやめるよう要求。援助提供国・機関は、カンボジア政府に対し、政治的暴力の終焉、批判者への攻撃と嫌がらせの停止、プラマ村民の抗議運動の原因でもある汚職まみれの土地収用の中止、政治的な動機に基づく裁判で有罪となったすべての人びとを再審無罪として釈放するよう、圧力を掛けねばならない。しかし、年次ドナー会合は、先週、特に意味のある圧力もないまま終幕した。

アダムス局長は、「今回の有罪判決で、カンボジアが11月の東アジア首脳会議を主催する資格があるのか、疑義が生じている。オバマ大統領はじめ世界の指導者たちは、今回有罪判決はもちろん、野党指導者サム・ランシー氏への有罪判決のような根拠のない有罪判決がくつがえされない限り、開催地を別のASEAN加盟国に移す旨を主張すべきだ」と述べる。「平和的な批判者に対して卑劣なキャンペーンを仕掛けているフン・セン首相に、世界の指導者陣のホスト役をやらせて国内外でその地位に正当性を付与するようなことは、大いに遺憾である。」

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