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(ニューヨーク)-多数のシリア難民が母国を離れ、その数は増加の一途を辿っている。しかし、シリアの隣国は難民に対し国境を開放し続けるべきであり、また、援助国政府は難民支援のためにしっかり支援を行うべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。シリアの隣国であるトルコ、イラク、ヨルダン、レバノンの4カ国は、約20万人にのぼるシリア難民に対し、これまでおおむね国境を開放してきた。しかし、先週来、各国政府の当局者の中から「受け入れの限界に近づいており、間もなく国境を閉鎖する可能性がある」という声が出始めている。

多数の難民の流入がシリア隣国への圧力となっている現実はある。しかし、隣国政府当局は、シリア難民の入国を許すとともに合法的な滞在を認めるべきであり、拘禁・閉鎖された難民キャンプへの収容・強制送還などは避けるべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ難民局長のビル・フレリックは「長年にわたり、シリアは、紛争から逃げて来たパレスチナ人、レバノン人、イラク人に国境を解放し続けるとともに、難民たちの自由な移動を認めてきた。今度は、シリア人が恐ろしい暴力から逃げざるをえない状況におかれている。隣国は、シリア難民に対しても自国の難民が受けたのと同様の対応で迎えるべきである」と語る。

難民数の増加とともに到着ペースが加速する中で、受入れ国政府は、難民を閉鎖キャンプに収容して安定した法的地位を提供しない方針をとるなど、難民流入を阻止し人数を最小限に抑える方針をとる圧力を感じている。トルコ外相は「国連が、シリア国内のいわゆる安全地帯に難民キャンプを設立すべきだ」と発言。しかし、仮にそうした安全地帯が設立されるとしても、そうしたキャンプは、他国への亡命を求めてシリアから逃げて来る人びとを阻止するために使われるべきでない。

イスラエルを除くシリアの隣国はこれまで、国境をおおむね開放し続けてきた。イスラエルのエフド・バラク国防相は、シリアから逃げ出してくる『難民の波』が占領地ゴラン高原に到達することを阻止する意向を示している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、そうした措置は、迫害への違法な強制送還に該当する、と指摘した。

シリア・トルコ国境の2ヶ所の主要な国境検問所での審査手続きが事実上機能停止したため、約9千人のシリア人が国境のシリア側に足止めされている。トルコのアフメト・ダブトグル外相は2012年8月20日、日刊新聞ハリエットに、トルコ政府は既に滞在しているシリア人難民6万5千人の受入れにすでに困難を抱えており、10万人を超す難民は受入れられないと示唆した上で、国連がシリア国内に難民キャンプを設立するべきだ、との意見を表明。ダブトグル外相のこの発言以来、トルコ国内での登録済みシリア難民の数は、およそ1万5千人増加している。

イラク国境のシリア側にも数百人のシリア人が足止めされており、空爆や砲撃の危険にさらされている。イラク政府がアルカイム(al-Qaim)国境検問所を閉鎖したため、多くはバブ・アルサラマ(Bab al-Salama)国境検問所のシリア側にあるバス停で立ち往生。歩道で寝泊りしている。イラク政府当局はアルカイムの難民キャンプの収容能力を拡大した後、国境を再度開放する見通しと公式発表しているが、8月27日、イラク移住・避難民省のある職員は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、同省は国境閉鎖を勧告しておらず、国境閉鎖決定は専ら「治安上の措置」であると述べている。またアルカイムの難民キャンプ管理運営に関与しているあるNGO職員は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、同キャンプの収容能力の限界に達しているという事実はないと話した。

前出の難民局長フレリックは「トルコ政府、ヨルダン政府、イラク政府、レバノン政府がシリア人難民に国境を開放し続けたことは、極めて大きな称賛に値する。シリア国内での戦闘がエスカレートし、到着する難民のペースと数が加速している現在、国境を開放し続けること及び外国に亡命を求める基本的権利を尊重することは、一層重要となってきている」と指摘した。

国連難民高等弁務官事務所(以下UNHCR)によれば、同地域で20万人以上のシリア難民が登録済み或いは登録手続き中で、8月下旬に新たに到着した者の割合は激増している。多くの難民がUNHCRに登録していない現実に照らせば、実際の難民の数はさらに多い可能性がある。

イラク政府、ヨルダン政府、レバノン政府、トルコ政府はシリアから避難してきたシリア人などの難民に対し、短期更新可能ビザ、難民申請者としての地位、一時保護など様々なタイプの法的地位を与えて来た。しかし4国のいずれもシリア人を難民として正式認定してはいない上に、最初から難民の移動をキャンプ内のみに制限する国もあれば、或いは最近そのような制限を始めた国もある。殆どの国の政府は逃れてきたシリア人を「ゲスト」或いは「ブラザー」と呼び、国際法上具体的な権利を有する特別な意味である「難民」とは呼称していない。

UNHCRはこの危機への対応として1億9,300万ドルの資金供与を求め、国際社会はUNHCRに今日までその総必要額の約1/3である6,400万ドルを拠出。加えて、アラブ連盟と米国はそれぞれ受入れ国に1億ドルを資金援助すると約束、一方サウジアラビア政府は少なくとも7,250万ドルを既に集めている。援助国政府が、難民を多数受入れている国々の難民キャンプ開設などを寛容に支援することが必要不可欠である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。

トルコ:8月27日現在、トルコは最大規模の難民を受入れており、その数は7万4千人にのぼる。政府当局は国境近くに難民キャンプ9ヶ所を開設し、さらに7ヶ所を建設中だ。トルコはキャンプ内の難民に短時間の出入りを認め、人道援助の受け取りを辞退する難民に対しては、非公式ではあるが、キャンプ外で生活することを許可している。

ヨルダン:8月24日現在、ヨルダンは約6万1千人の難民を登録済み、あるいはその手続き途中である。政府当局はアルザアツリ(al-Za’atri)に難民キャンプを開設、およそ1万6,500人を収容している。ヒューマン・ライツ・ウォッチが8月8日に、アルザアツリ難民キャンプを訪問した際、滞在中のシリア人難民たちは、キャンプを離れることは許されていないと話していた。ヨルダン人の保証人を見つけた難民や影響力のあるヨルダン人を知っている難民は、キャンプから恒久的に出ることができた、と語る難民もいた。報道によれば、8月13日、ヨルダン機動隊がキャンプから出て行こうとする60人の難民を阻止。また8月26日には、ヨルダン政府のサミフ・マイタフ(Samih Maaytah)報道官がヨルダン・タイムスに対し、「戦闘から逃げてきた難民の数は、キャンプの収容可能数を越えた。キャンプを管理運営する機関の能力を越える特別の取り組みが必要とされている」と述べた。

イラク:イラク政府は約1万6千人の難民を受け入れており、その3/4はイラク北部に位置するクルド地域政府の管轄権下で生活している。イラク政府は、シリアとの国境を開放し続けるとともに開放型の難民キャンプを開設。キャンプへの難民の出入りは自由で、完全にキャンプを去ることも可能である。アンバル(Anbar)行政区内で、イラク中央政府当局は、何度か一時的に国境を閉鎖し、今後新たに到着する難民はキャンプに閉鎖収容すると述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは8月9日、難民が仮収容されていた学校17ヶ所のうち5ヶ所を訪問、施設は警察と軍に警護され、そこから離れるのを許されていないことを明らかにした。8月27日現在、4,250人余りの難民が学校とアルカイムにあるキャンプに収容されている。イラク移住・避難民省のある職員はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、国境閉鎖以来、数十の家族がそれぞれ個別審査後に越境を認められた、と語った。

レバノン:レバノンでは高等救済協議会(High Relief Council)とUNHCRが、難民登録済みあるいは登録途中のシリア難民約5万1,000人を支援中だ。しかし、難民登録をしても、シリア難民は援助を受け取る権利を得られるだけで、法的地位は得られない。正式な国境検問所から入国した避難民は、2回更新できる6ヶ月の入国ビザを与えられる。他の方法で入国した者は不法入国者とみなされ、投獄や罰金、強制送還の危険がある。シリアの国境検問所で逮捕される恐れがあることから、極めて多くのシリア人がレバノンに不法に入国しており、こうした難民たちは身柄を拘禁され強制送還される危険に直面している。レバノン政府は8月にシリア人14人を強制送還したが、そのうち4人は自国に帰った時の迫害が怖いと話していた。

前出のフレリック難民局長は「難民キャンプは、緊急事態の中で避難先を提供し命を救うのには適している。しかし、閉鎖キャンプについては、特に長期間の収容は難民の権利を損なうと共に、怒りと欲求不満を高めてしまう可能性がある。適切な治安上の審査が終了後は、受入れ国は、難民が受入れ国の疲弊の原因とならずに自立してその経済に貢献できる存在となれるよう、法的地位と移動の自由を与えるべきである」と指摘する。

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