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(ニューヨーク)-タジキスタン政府当局は、同国東部のゴルノ・バダフシャン準自治州での公安・治安維持活動中も人権を尊重しなくてはならない、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

2012年7月21日にゴルノ・バダフシャン自治州の国家安全委員会州支部長官が刺殺される事件が起き、タジキスタン政府が容疑者逮捕のために軍を派遣。それ以降、州都ホログで何十人もの人びとが殺害され、多数の負傷者も出ていると報道されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中央アジア調査員のスティーブ・スワドロウは、「ゴルノ・バダフシャンでの事態は、憂慮の度合いを深めている。両陣営ともに、一般市民にこれ以上の危害が及ぶのを防ぐための対策が求められる。」

7月24日、タジキスタン政府当局が数百人規模の部隊を戦闘用ヘリコプターや装甲車と共にホログ市に派遣したとの大々的な報道があった。当局が逮捕しようとした人物は、1992年〜97年のタジキスタン内戦の際の反政府勢力指導者で、アフガニスタンに接する国境部隊の副指揮官だったトリブ・アヨムベコフ(Tolib Ayombekov)で、彼の仲間数名も含まれる。彼らには国家安全保障委員会州支部長官アブドゥロ・ナザロフ(Abdullo Nazarov)少将殺害の容疑が掛けられている。同委員会は以前から、アヨムベコフが麻薬やタバコ、貴石の密輸に関与していると非難していた。

アヨムベコフ自身はナザロフ少将殺害の関与を否定している。アヨムベコフ派の武装勢力は政府軍と激しく衝突し、同州からの政府軍の撤退を要求した。

タジキスタン政府当局は7月25日、一方的な停戦と一部戦闘員の恩赦を宣言。しかし、アヨムベコフが政府軍への降伏を拒否した翌日に戦闘が再開された。数々の目撃者が、ホログ市全域の様々な地区で先週銃撃戦が行われたと証言している。

アヨムベコフの所在は不明であるものの、複数の政府当局筋は、アヨムベコフ派の戦闘員らが政府提案の恩赦取引の一環として、武器の引き渡しを開始したとしている。内務省は7月30日、60以上の武器が放棄されたと発表。その代わりとして政府は、近時の戦闘に関する罪を問わないと約束している。

7月28日現在、政府情報筋はこの武力衝突で政府軍兵士17人、武装勢力戦闘員30人、一般市民20人が死亡したと発表した。一方で独立系消息筋は、政府発表をはるかに上回る数の市民の犠牲者が出ていると報告している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは犠牲者数に関する報告を確認できていない。また、複数の政府当局者が、国境を接するアフガニスタンの国籍保持者8人を含む、40人の戦闘員を拘束したと明かした。

逮捕などの警察活動を行う際、兵士などの政府当局者は、武力行使に関する国際的な法律基準に従うべきだ。「法執行職員による強制力及び武器の使用についての国連基本原則」は職務遂行中の法執行職員に対し、有形力(force)と武器使用に訴える前に、可能な限り非暴力な手段を講ずるよう義務付けている。また、有形力や武器使用を合法的に行える場合であっても、法執行職員は節度を保ち、違反行為の重大性に釣り合う行動をとる義務が課されている。同基本原則は、「人命保護に不可欠な厳しく限定された状況」においてのみ致死力を持つ有形力の行使を認めている。

前出のスワドロウ中央アジア担当調査員は、「ゴルノ・バダフシャン自治州で起きた犯罪がいかに重大であろうと、政府には国際法に沿った対応が求められる。それは、ホログ市住民の基本的権利を守るとともに、容疑者たちの基本的権利も尊重しなくてはならないということだ」と指摘した。

タジキスタン政府当局は7月24日から断続的に、ゴルノ・バダフシャン自治州へのインターネット、携帯電話、固定電話による通信手段を遮断。しかし、29日に再開した。タジキスタンにおける情報源として最も広く読まれている「アジア・プラス」は数日間にわたり遮断された。また、ホログ市で起きた小さなデモのビデオ映像が流れた後の7月26日以来、ユーチューブは遮断されたままとなっている。複数の報道によると、いくつか他のインターネット上ニュースサイトも、遮断され続けている。

国営通信サービスを率いるベグ・ズフロフ(Beg Zukhurov)は、同地方への固定電話・携帯電話・インターネット接続が切断されたのは、流れ弾のためだと主張。

同地方の通信手段遮断によって、既に重大な危険にさらされている人びとをさらに孤立させ、家族や親族が現地家族の所在や安否についての情報を得るのを妨げる結果となっている。

政府が、アフガニスタンとの国境の閉鎖に加えて、ホログ市に続く道路を遮断したとの報道もあったが、7月30日現在は再開通している。首都ドゥシャンベと断続的に連絡をとり続けている複数のホログ市住民によると、武力衝突を逃れて同地方を離れようとした住民たちは、道路閉鎖により避難困難な状況だったという。

タジキスタン政府はまた、国内市民社会団体やメディア、国際NGOに対する同地方へのアクセス規制も緩和すべきだ。

ゴルノ・バダフシャン自治州において、政府が特定の人びとや勢力の動きを規制することは合法的にできる可能性がある。しかし、こうした制約は均衡のとれた規制であるべきで、政府は人びとを更なる危険にさらすような全面閉鎖を選択すべきではない。

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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