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アメリカ合衆国大統領 バラク・オバマ殿

ヒラリー・クリントン国務長官は2012年4月4日、ビルマに関する投資などの制裁措置を緩和する予定だと発表しました。私たち9団体は現政権のこうした計画に懸念を表明します。具体的な進め方については現在も議論中で、最終決定が出ていないことには感謝を表明します。しかし現在提案されている米国の政策の方向性は、ビルマ政治改革への段階的な実現という目的にとっては最適ではないと考えています。補欠選挙が実施されるなど肯定的な変化も見られますが、ビルマ政府は同国の民主化に必要な改革をまだ実施しておらず、政治権力の根幹は国軍が掌握しています。真の改革が行われるまで米国は同国への影響力を保持し続けることがきわめて重要です。

私たちは、改革の進展具合に応じて制裁を段階的に緩和する米国政府の基本的立場を支持します。段階的アプローチを取ることで、米国政府は、ビルマの民主化と持続的平和の実現、人権状況の改善に向けた、実質的な政治改革の継続を支援する方向で、同国政府に関与し、影響力を行使することが可能になります。しかし私たちは、貴政権がこうした目標を損なう方向に進んでいるのではと懸念しています。金融取引と投資に関する現行の制裁措置を一段と緩和するにあたっては、必要不可欠な政治改革が現時点でこれまでよりもどの程度進んでいるかを踏まえるとともに、ビルマ国内の人権状況改善に関する進展を反映する形で、その状況を受けて、緩和することが必要だと私たちは確信しています。

以下で述べるように、短期的に見て最適なアプローチは、投資・金融制裁を緩和するに先立って規制対象リスト(SDNリスト)を包括的に更新することだと私たちは考えます。中期的には、米国はビルマの民間セクターならびに民族指導者と連携し、ビルマで商活動を行う米国企業を拘束する基準を策定し、限られた産業部門に関してのみ制裁措置を解除することです。選定作業は、米国財務省ならびにビルマの民間セクターや民主化勢力、民族指導者の参加によって慎重に行われることになります。私たちはまた、貴政権が、ビルマに関する政策目標と検討中のアプローチの全体像に関して、議会により効果的に伝達した上で、現在の制裁緩和は条件付きのものであり、権利放棄によって、つまり条項自体は改正しない形で継続的に実施されるべきであること、また制裁措置条項は更新が必要なので、議会は今年度も引き続きこれを承認すべきであることを明確に示すべきだと考えます。

上で申し上げたように、金融取引と投資分野に関する制裁措置の緩和は、SDNリストの包括的な更新が行われるまでは時期尚早だと私たちは考えます。また制裁緩和にあたっては、企業の所有権や経営が、SDNリストに現在も掲載されている人物と、またはビルマ国軍が所有かつ/または管理する企業と何らかの関係がある場合については、そうしたビルマ企業への投資は認められないことを、同時にはっきり告知する必要があります。もしこうした予防策を実施しなければ、制裁緩和後に可能となる米国企業の新しい経済活動によって、人権侵害に責任のある個人や企業が直接利することになりかねません。現在のSDNリストの包括的な更新はここ数年行われていません。財務省と協議してリストの包括更新が完了する時期を確定した上で、同省とさらなる協議を行い、現在の政策を大きく見直す前に、対象限定制裁の将来的な実施をにらんで、適切な資源を整えておくことがきわめて重要だと私たちは考えます。

以上の施策を行った後には、貴政権が投資分野での制裁を見直すよりも前に、金融分野での制裁緩和を検討することを私たちは提言します。さらに、貴政権が投資分野での制裁を全体として維持した上で、米国政府により、当該部門への投資がビルマ国民にとって有益であることが明確であり、人権侵害や汚職、縁故主義を悪化させることがないとの判断が出た後で、限られた産業分野に関してのみ段階的に制裁対象から外す方式をとることを私たちは求めます。投資分野の拡大に対する許可は、諸条件の整備状況に合わせて、時間をかけて行うこともできます。私たちが反対するのは、これとは異なり、特定部門だけの制裁を残して、残りの全部門の制裁を解除してしまう方法です。このアプローチを取ると、制裁対象から外れた部門については、以上で挙げた問題が比較的少ないという誤ったメッセージを投資家に与えかねません。私たちはこれを懸念します。さらに、このアプローチは貴政権から、ビルマ国民が投資から実際に得た利益を診断するにあたり、個々の産業部門の活動から教訓を得る機会を奪うことになります。

私たちはまた、対ビルマ貿易・投資にあたっては、責任と人権尊重という基本的な要件を明記した上で、新しいルールが策定されることを求めます。米国は今こそビルマ国内外の民間セクターと協議にとりかかり、ビルマでの経済活動に関する強力なアカウンタビリティと透明性の確立を行うべきです。

以下、米国政府が継続的に進展を促すべき、ビルマ国内の未解決課題を列挙しました。貴政権が今後行動を取るにあたって、これらの要件がすべて満たされるべきであると主張するものではありません。そうではなく、大統領におかれましては、重要な変化がいくつも生じていることは確かだが、構造や制度を変えるにはまだまだ多くの進展が必要なことを意識してもらうことを強く望むものです。今後インセンティブを付与するタイミングについては、ビルマ政府に道のりはまだ長いことを認識してもらえるような形にすることが重要です。

米国の対ビルマ制裁の段階的緩和は、以下に記した未解決の問題に関して目に見える成果が達成されるかどうかと連動して行われるべきであるとの考え方を、私たちは共有しています。

 

現在も獄中にある政治囚全員の釈放を実現し、既に釈放された元政治囚に加えられているあらゆる制限を撤廃すること

被拘禁者が政治的理由に基づいて収容されたかについて争いのある事案について、それを扱う信頼できる審査プロセスを制度化すること

国内外の人道団体と独立した人権監視団体に対し、紛争地域への自由なアクセスを許可すること、また量と内容の面で十分な人道援助の提供を許可すること

ビルマ国内の紛争地域での国際人権と国際人道法の深刻な違反行為を停止し、人権侵害の訴えを調査し、実行者に適切な制裁や訴追を行い、人権侵害被害者に早急かつ十分な補償を行うために、必要なあらゆる手段を取ること

ビルマ政府と民族武装勢力とが政治的和解を行うにあたっては、民族的少数者居住地域での人権(市民的・政治的・経済的・社会的・文化的権利)の保護と人権状況の改善をはかるメカニズムを設けること

国軍に文民政権よりも力を与え、かつ文民政権に対するアカウンタビリティを免除する憲法の規定を改正すること

司法制度改革を行い、司法権の独立を保障すること。また立法上の措置により、人権侵害行為実行者の責任追及を可能にすること

ビルマ国内法の条文と運用を、表現・結社・平和的集会の自由など基本的自由に基づく国際基準と一致させること

ビルマの強制労働に関するILO(国際労働機関)調査委員会の全勧告を実施すること。強制労働を直接行わせるか、それを支持したと判断された企業への制裁措置を維持すること

労働組合や労働センター、労働者の権利を擁護するNGOの結成に関する障壁を全廃すること、労働運動家を雇用者や政府による干渉や報復から守ること、平和的な労働者による抗議運動やストライキを保護すること

亡命者と難民が報復を受けず安全に帰還できることを保障すること

天然資源や公的基金からの利潤がビルマ国民の利益となり、浪費されたり盗まれたりしないことを保障するために、財政の透明性を確立すること

国家予算に占める国防関連費の割合を徹底的に再計算し、ビルマの民間セクター、野党、少数民族指導者と実質的な協議を行い、国民の基本的なニーズに対応し、公共部門の財政運営を改善する国家予算を組むこと

憲法改正、ならびに国軍に対する真の文民統制の確立の必要性を意識した上で、2015年に自由で公正な総選挙が実施可能な環境を整えること、そして現政権が、総選挙で勝利した政党への権力委譲を、勝者がどこであれ行うこと

以上の点をご検討願えれば幸いです。これら重要問題に関して貴政権幹部と引き続き関係を持つことができ、嬉しく存じます。

 

署名団体:

AFL-CIO

Freedom House

Human Rights Watch

Institute for Asian Democracy

Open Society Foundations

Orion Strategies

Physicians for Human Rights

U.S. Campaign for Burma

United to End Genocide

 

書簡送付先:

Hillary Clinton, U.S. Secretary of State

Timothy Geithner, U.S. Secretary of Treasury

Thomas E. Donilon, National Security Advisor

Ambassador Derek Mitchell, U.S. Special Representative and Policy Coordinator for Burma, Department of State

Michael Posner, Assistant Secretary of State, Bureau of Democracy, Human Rights and Labor, Department of State

Kurt Campbell, Assistant Secretary of State, Bureau of East Asia and the Pacific, Department of State

Ambassador MelanneVerveer, Ambassador-at-Large for Global Women Issues, Department of State

Samantha Power, Senior Director for Human Rights and Multilateral Affairs, National Security Council

Daniel Russel, Senior Director for Asia, National Security Council

Adam Szubin, Director, Office of Foreign Assets Control, Department of Treasury

Jake Sullivan, Director, Policy Planning, Department of State

Cheryl Mills, Chief of Staff to Secretary Clinton, Department of State 

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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