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バングラデシュ:政府公約「特殊部隊の殺害やめる」破られる

政府は緊急行動部隊(RAB)を解体 又は 抜本的改革を


(ダッカ)-バングラデシュ政府は、緊急行動部隊(RAB)による超法規的処刑・拷問などの人権蹂躙を止めるとともに関係者を裁判にかけるという公約を守っていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。

報告書(全53ページ)「銃撃戦:今なお続くバングラデシュ緊急行動部隊による人権侵害」は、アワミ連盟(Awami League)率いる現政権の下、首都ダッカ及び周辺でおきたRABによる人権侵害を調査して取りまとめている。2009年1月6日に現政権が就任して以来、200名近い人々がRABの作戦中に殺害されている。野党時代、アワミ連盟はこうした超法規的処刑を止めさせると公約したが、政権について以来、政府高官らはRABによる人権侵害の事実を否定し、中には正当化する発言もあらわれている。

「政権について2年。政府には、RABの殺戮行為を止めさせる措置を取るのに十分すぎるほどの時間があった。それにも拘わらず、暗殺部隊はバングラデシュの街頭を今も徘徊しており、政府は止めるための行動を何もとっていないようだ。シェイク・ハシナ(Sheikh Hasina)首相は行動を起こす必要がある。」とヒューマン・ライツ・ウォッチアジア局局長ブラッド・アダムスは語る。

本報告書は、2006年に公表されたヒューマン・ライツ・ウォッチ報告書「裁判官 兼 陪審員 兼 死刑執行官:バングラデシュ精鋭部隊による拷問と超法規的処刑」をベースに、80人を超える被害者・目撃者・人権保護活動家・ジャーナリスト・法執行官・弁護士・裁判官への聞き取り調査を元に作成されている。

バングラデシュ政府は殺戮行為の停止、犯人の処罰など、数々の公約を重ねてきたが、RABの将校・要員誰一人として「銃撃戦」殺人などの人権侵害で訴追されていない。同部隊は、ほとんどの殺人の正当化に、「銃撃戦による死亡」という理由を用いてきた。

今後6ヵ月以内にRABに対する法の裁きと正義の実現に大きな進展がなければ、バングラデシュ政府はRABを解体すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。大胆な改革が行われない限り、米国や英国、オーストラリアなどの援助国は、ただちにバングラデシュへの全ての援助や協力を停止すべきである。

RAB は2004年3月に、軍(陸軍・空軍・海軍)、警察、その他バングラデシュ法執行機関のメンバーから成る混成部隊として形成された。メンバーは親元の所属組織から指名され出向し、RABでの任務を終えた後には元の所属組織に戻る制度となっている。RABは内務省の統制下で、警察の次席監察官以上あるいは軍における同階級の将校指揮下で活動する。この部隊は対テロ精鋭部隊として見なされているが、実際には犯罪容疑者に加えて、イスラム過激派あるいは左翼団体のメンバーとみなされた人物を標的にしてきた。

プレス発表では、毎回のように、同部隊は犯罪者やその共犯者がRABに発砲した後に、"銃撃戦"になり相手を射殺した、と主張する。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチと複数のバングラデシュ人権団体が行った調査は、多くの犠牲者は同部隊に拘束されている際に処刑されたことを明らかにした。殺害された者の遺体には多くの場合、拷問されたことを示す痕跡があった。同部隊による拘束を生き延びた多くの人々は、部隊により拷問されたことを訴えた。

最近では3月3日、ダッカの友人の店で勤務中だったラサル・アフメド・ブット(Rasal Ahmed Bhutto)が平服のRAB要員に逮捕されるという事件があった。ブットの義理の兄弟であるグラム・ムスタファ(Gulam Mustafa)がヒューマン・ライツ・ウォッチに話したところによれば、「軍に所属する親戚がRABにいる同僚と連絡を取り、ブットを"銃撃戦"で殺さないという約束を取り付けた。しかし、3月10日、ブットは、同部隊の所有する車両により生存したまま連行されたがその後射殺されてしまった」という。
RABは、ジャーナリストを招集し、銃撃戦で殺害された犯罪容疑者の遺体だとしてブットの遺体を公開した。

「彼らはブットを連行して、血も涙もないやり方で殺したんだ。」とムスタファはヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。

アワミ連盟の党員は野党時代RABの犠牲者であり、党幹部は同部隊が政治的な動機で殺害を行っていると糾弾していたが、設立以来同部隊が享受し続けている不処罰の慣行はアワミ連盟政権下になっても続いている。

前任のBNP(バングラデシュ民族主義党)政権時の発言を再現するかのように、内務大臣などの政府関係者は、同部隊などの法執行機関の不正を否定するばかりか、犠牲者は全て当局者の正当防衛の結果、射殺されたという作り話に固執している。

例えば2009年3月に、シャフィーク・アフメド(Shafique Ahmed)法務大臣はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「治安部隊の行った過去の人権侵害疑惑について、犯人が今もRABに在籍し違法手段を続ける可能性が高いとしても、政府には捜査する意思はない」「"銃撃戦"殺人を容認するものではないが、RABは"犯罪者"だけを殺害しているのだということを忘れてはならない」と発言している。人権団体の多数の報告があるにも拘わらず、同大臣は2010年5月更に、「国内ではもはや銃撃戦事件は発生していない」と述べている。

同部隊を監督するサハラ・カトゥン(Sahara Khatun)内務大臣は2011年1月、超法規的処刑が増大しているという指摘に以下のように回答している。「この問題に関しては様々な意見があることは承知している。しかし私は内務大臣として、法執行者の職務は犯罪者を法廷に差し出すことである、と申し上げている。」と述べた。引き続き起こっている超法規的処刑に関するヒューマン・ライツ・ウォッチの主張について質問されると、彼女はこう答えた。「法執行者は、犯罪者が発砲してきた時に自分の命を守るために最低限の手段に訴えているだけなのです。」

シャージャハン・カーン(Shajahan Khan)海軍大臣は「銃撃戦による殺害は人権侵害ではない。恐喝やその他犯罪の抑制に役立ってきた」と発言している。

残念なことに、政府がこのような暴言を何一つ撤回しないでいる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。アワミ連盟幹部は常々、党はRABに対して実効的に政治主導を発揮できるので、人権侵害を行う者を一掃する必要はないと主張してきた。しかしそのような主張は、2年以上にわたるアワミ連盟政権下の証拠で、偽りであることが明白である。

懸念すべき事態の進展として、RABは最近になって強制失踪(拉致)に手を染め始めている。複数のバングラデシュ人権団体によれば、RABは関与を一切否定しているものの、人々を殺害し始めているという。

RABは、7年間にわたり、人権侵害を広範囲にわたり繰り返し、700名以上に上る死者を出し続けた。もし、今後6ヵ月以内に人権に対する姿勢が大幅に改善せず、人権侵害の関与者も訴追されなければ、政府はRABを解体しなければならない。その代わりに政府は、警察内部に新部隊を設置するか又は新しい機関を創設して、人権保護を軸に据えて重大な組織犯罪やテロ対策を行なうべきである。RABにしろ、新設部隊にしろ、要員を軍から採用してはならない。軍は民間警察とは違った行動様式を持っている。」とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

バングラデシュ政府が自らの公束を守るとともに、RAB拘束中の拷問や死亡事件に対して、迅速・公平・中立な捜査を確実に行うよう、米国、英国そしてオーストラリアは強く主張しなければならない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

「RABは、もはや犯罪やテロを抑制するための精鋭部隊ではなく、極めて危険な法律破壊グループになり下がっている。」とアダムスは語る。「今、政府にこのような惨状の原因に対処する意思があるのかどうかを問うのは当然である。」


報告書での証言からの抜粋


「"息子を殺して一体いくらの金を手にしたのか。私も同じように銃撃戦で殺されるのね。"そう詰め寄るとRAB将校の1人が私の首根っこつかんで、"出て行け、このアバズレ女。黙らないなら、ここにいる連中がお前を殺す"と脅したんです。"あなたの仕事が私を守るためじゃないのなら、あなたこそ、ここで何をやっているのよ"そう聞くと将校らはぐうの音も出なくなって、私に帰るよう言って、ミツフォルド病院(Mitford hospital)に行けばパップ(Pappu)の遺体が回収できることを伝えてきたんです。」

2010228日にRABに殺害されたアザド・フセイン・パップ(Azad Hussein Pappu)の母親

「既に来ていた報道機関に対し、RABはブットが特殊作戦に巻き込まれたと繰り返し説明していた。俺は彼らに向かって大声で言った。"たとえブットが何か悪い事をしたとしても、法の支配があるこの国で、RABがブットを殺す権利がどこにあるんだ。"ってね。RABの将校たちは、無言で私を睨みつけた。恐ろしかったよ。その後、数人が反論してきたけれど、地元のアワミ連盟の幹部が出てきて、"
誰が何と言おうとブットは犯罪者だ"とスローガンを唱え始めた・・・。RABは解剖のために遺体を持ち去った。遺体を回収した時、ブットの耳の中に1発の弾丸が入っているのが見えた。警察は私に、白紙に署名をさせた。できることなら断りたかったけど、すぐ諦めるしかなかった。」

グラム・ムスタファ(Gulam Mustafa)。親類が殺害された状況について語って

「目隠しをされ両手は縛られた上で無理やり座らされたわ。平服の男4人にサトウキビの茎で脚を殴られたの。その間RABの制服を着た男が1人じっとみつめながら座っていた。足が枕みたいに腫れあがったのよ。」

ベイビー・アクタル(Baby Akhtar)。RABによる拷問について語って

 

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