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スリランカ:国連の専門家が報告書を提出

潘事務総長は、調査結果を法の裁きの実現のため活用を

(ニューヨーク)潘基文(パン・ギムン)国連事務総長が設置した専門家委員会 (panel of experts)が、スリランカにおける戦争法(国際人道法)違反に関する2011年4月12日付報告書を提出した。この報告書は、法の裁きと正義への道を開くために活用されるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。分離独立派武装組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との数十年にわたる内戦の最後の数ヶ月に、多くの戦争法違反が起きたと見られる。しかし、スリランカ政府がその調査をしなかったことを受け、国連の潘事務総長は2010年5月、国連の専門家委員会に調査報告書の作成を依頼していた。

潘事務総長事務所は、報告書をスリランカ政府と共有した後、公開すると発表した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは「潘事務総長が専門家委員会を設置し報告書を公開するということは、国連はスリランカの内戦犠牲者たちを忘れていないことを示す」と述べる。「スリランカ政府は、2年間も調査を頑なに妨害してきた。この報告書の公開は、スリランカにおける法の正義の前進に役立つだろう。」

スリランカ政府もLTTEも、内戦の最終盤の5ヶ月間、人権侵害を特にエスカレートさせた。戦争犯罪や、人道に対する罪に該当する可能性がある深刻な国際法違反が犯され、その結果、その5ヶ月間だけでも何万もの民間人が死傷した。内戦終結直後の2009年5月23日、マヒンダ・ラージャパクサ(Mahinda Rajapaksa)大統領は、戦争法違反の調査をスリランカ政府が行なうと潘事務総長に約束する声明を出した。

それからおよそ2年が経つが、スリランカ政府は、内戦当事者のいずれの側についても、戦争犯罪や人道に対する罪など、国際法の重大な違反の責任を問う手段を全く講じていない。内戦の後に、スリランカ政府は2つのアドホック機関を立ち上げたものの、訴追はもちろん、犯罪捜査の端緒とすることさえ失敗した、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。

スリランカ政府は、国連の潘事務総長が専門家委員会を任命することに反対し「主権国家への不当かつ不必要な干渉」と反発した。委員会が任命された直後、スリランカ政府の大臣は、スリランカの首都コロンボにある国連本部の外で暴力的なデモを敢行。国連は結局、常駐コーディネーターを一時的にスリランカから呼び戻し、事務所の一つを閉めることとなった。スリランカ政府は、スリランカ国内の機関でもアカウンタビリティ(真相究明と法の裁き)を確保できると反論し、国連の専門家委員会との協力も、委員の受け入れ可能な条件でのスリランカ訪問も拒否してきた。

しかし、米国国務省がスリランカ内戦中の人権侵害に関する報告書を発表したのに対応して、2009年11月にスリランカ政府が設置した専門家委員会は、いつまでも任務を完了せず、何の報告書も発表していない。

もうひとつの機関である「過去の教訓・和解委員会 (Lessons Learnt and Reconciliation Commission)」も、公聴会を開催する権限しか持っておらず、まともな調査を行う権限がない。また、公聴会で証言した被害者や目撃者を保護する仕組みがなく、公聴会の実施に際してははっきりと政府よりの姿勢を示した。2010年9月付の中間勧告には、正義(法の裁き)や責任に関係する勧告は一切含まれておらず、5月に政府に報告書を提出する予定とされてはいるものの、報告書をすべて又は一部でも公開するとはされていない。スリランカ政府は、ラージャパクサ大統領が以前設置した委員会「2006年大統領下の事実調査委員会」(2006 Presidential Commission of Inquiry) の報告書も公開していない。

「スリランカ政府は、専門家委員会に最初から反対してきた。そして、その立場を変更したと示す行動は何一つとっていない」と前出のアダムズは述べる。「重大な犯罪に対して法の裁きが行なわれることが重要だと考える国連加盟国は、潘事務総長のイニシアチブに対し、可能なあらゆる支持・支援を今しっかりと示すべきだ。」

スリランカ政府も、内戦最終盤の数ヶ月間に国際法違反行為を犯した多数の証拠があるにも拘わらず、軍は違反行為はなかったと主張し続けている。様々な発言があるが、例えば、スリランカで超法規的殺害や強制失踪などが引き続き起きていると報告する4月8日付けの最新の米国政府の年次人権報告書の公表に対し、スリランカ軍の報道官は「これらの主張は全て根拠がない」と述べ、内戦の最終盤の数ヶ月に関しては「人道作戦が戦争法の下で実施されたのであり、そのような行為が軍によって行われたことはない、と我々は確信している」と続けた。

しかし、4月7日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、内戦の最後の数日間にスリランカ軍によって行なわれた強制失踪に関する新しい情報を発表。例えば、LTTE関係者が政府軍兵士に尋問されている動画も含まれているが、彼は後に「失踪」させられた。軍の報道官は、拘禁施設に連行された人びとには説明をしており、家族にも通知していると話した。しかし、女性たち数人が「過去の教訓・和解委員会」で、軍が夫を拘束した後何の通知もないと証言し、警察にも被害を申し立てた。

「数多くの重大な戦争犯罪の証拠にも拘わらず、この2年間、一切の犯罪捜査がなされていない。この事実がすべてを語っている」とアダムズは指摘する。「こうしたスリランカ政府の行動は、国際的な行動を通じてしか、スリランカでアカウンタビリティと法の裁きを実現できないことを示している。」

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