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(ニューヨーク)  ベトナム政府は、宗教の自由と土地の所有権を求める中部高原地域のキリスト教少数先住民族に対する弾圧を強化している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。

報告書『ベトナムのキリスト教山岳民族:宗教弾圧の実態』(全46ページ)は、山岳民族(Montagnards)と呼ばれる先住民族に対するベトナム政府の弾圧を取りまとめている。報告書は、隠れて暮らす山岳民族を警察が一掃する様子を記述。当局による民家での礼拝集会の解散、信仰放棄の強制、カンボジアへの亡命を防ぐための国境封鎖について詳述している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、特別「政治治安 (political security)」(PA43) 部隊が、地方警察とともに、政治活動家または未登録の民家教会の指導者を拘束、拘留、尋問していることを突き止めた。2010年だけで 70人以上の山岳民族が拘留または逮捕され、250人以上が治安関係の犯罪で投獄されていることが分かっている。

「山岳民族、その中でも、個別の民家教会で礼拝する者たちは、ベトナムで深刻な迫害に遭っている。当局は、監視や管理が行き届かない所での宗教活動を決して容認しないからだ。」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ アジア局長代理のフィル・ロバートソンは述べた。「ベトナム政府は、山岳民族の独立宗教団体は、宗教を用いて社会不安を煽っていると主張し、取り締まりを強化している。」

中部高原は、ベトナム政府系でない国際人権団体が立ち入り禁止とされている地域。そこで、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ベトナムを逃れた山岳民族の聞き取り調査や、ベトナムの政府系メディアの報道内容に基づき、中部山岳地帯でおきている人権侵害の実態をとりまとめた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチとの聞き取り調査に対し、ある山岳民族の男性は、宗教の自由と土地の所有権を求めてデモに参加して逮捕され、Gia Lai州にある地方刑務所、T - 20で拷問された、と語った。

彼らは昼夜問わず、深夜でも私に尋問した。酔っ払った警察に私は起こされ、尋問され殴打された。尋問される時につけられた手錠は針金のようで、非常にきつく締められた。警察は尋問のたびに電気ショックをかけた。デモ行進でこの脚を使ったと罵りながら、私の膝に電気ショックをかけたんだ。

男性は「国家の連帯を危ぶませた」として懲役5年を言い渡され、執拗に両耳を殴られ続けたため、耳が一部聞こえなくなった。

警察は私の向かいに立ち、「1,2,3!」と叫ぶと私の両耳を両手で殴った。警察はこれを3回繰り返すのだが、最後に両耳に強い圧力をかけるんだ。耳や鼻から血が出た。私は気が狂ってしまいそうだった。耐えがたい痛みで、こうされるととても怖くなり、緊張した。

ベトナム政府は、公認のベトナム南部福音教会 (Southern Evangelical Church of Vietnam)の管轄外である未登録の民家教会に通う山岳民族のことを、「デガ・プロテスタント」と呼び、実際には宗教団体ではなく山岳民族の独立運動の隠れ蓑だと見なしている。ベトナムでは、すべての宗教団体は政府に登録し、政府公認の宗教団体の下で活動する必要がある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、山岳民族に対する組織的弾圧を直ちに止め、独立した宗教団体による自由な宗教活動を許可し、非暴力の宗教活動または政治活動を理由として投獄されている全ての山岳民族を解放するよう、ベトナム政府に求めた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ベトナム政府が宗教の自由の実態を改善させない限り、宗教の自由の侵害が特に懸念される国 (CPC)として、ベトナム政府を指定するよう米国政府に要請する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ベトナムの政府系ベトナム語メ​​ディアの情報に基づき、信仰の放棄強要の実態を取りまとめた。政府当局は、何百人ものカトリックとプロテスタントの山岳民族に対して、公開批判集会の場で自分たちの宗教を放棄するよう強制。これは、国際的に保護が認められた宗教と良心の自由権に違反するものだ。自らの信仰を捨てないものは、殴打され、逮捕・投獄される。

ベトナム地方裁判所は、しばしば「移動裁判」を行い、何百人もの目の前で治安関係犯罪容疑で人びとを裁き、無認可の宗教団体に加わらないようにというメッセージを強化している。

「宗教の自由は、国の認可を受けた宗教だけを意味するわけではな​​い。ベトナム政府はただちに独立宗教団体を認可し、それを信仰できるようにすべきだ。」とロバートソンは語った。

プロテスタントの山岳民族は長年弾圧されてきたが、カトリックの山岳民族が弾圧の標的となったのはもっと最近のことで、1999年にKon Tumでカトリックの一宗派である「ハ・モン (Ha Mon)」派が旗揚げされてからのこと。 2010年、ベトナム当局は、米国に亡命した山岳民族が、有名な宗派を操って、国家の結束を弱体化させていると非難した。ここ数カ月の間に、「ハ・モン」派信徒に対する、信教の放棄を強制する儀式や公式批判集会が、Kon Tum、Gia Lai、 Dak Lak地方で行われた。「ハ・モン」派信徒たちは、強制的に自らの過ちを告白させられ、「まやかしの宗教」の信仰放棄を誓約書に署名させられている。国営メディアはこれを「デガ・カトリシズム」とよぶ。

「政府から独立した教会で礼拝したいと願う中部高原の人びとは、公共の場での侮辱、暴力を用いた報復、逮捕、さらには投獄の危険に身をさらしている」とロバートソンは言う。

「250人以上の山岳民族たちが、投獄または裁判待ちの状態で、「国家の連帯を危ぶませる」といった公安犯罪の濡れ衣を着せられている。多くの元山岳民族の政治犯と被拘禁者たちは、警察で身柄を拘束中あるいは公判前の拘禁中に、激しい暴行を受けたり拷問を受けたりしたと証言している。2001年以来、少なくとも25 人の山岳民族が、刑務所、監獄、警察の留置所で拘留中の拷問や病気により死亡、あるいは病院や自宅への搬送中に死亡している。

ここ数カ月間でベトナム政府系メディアが報道した中部高原地域の公式批判集会で行われた、信仰の放棄の強制と、非暴力の活動家への嫌がらせは以下の通り。

  • 2010年11月、Gia Lai州の共産党機関新聞Bao Gia Lai紙は、Gia Lai州のIa Grai地区と Duc Co地区で、「デガ・カトリシズム」の排除難航中との記事を掲載。同地区の州境警備兵は、州境付近で「デガ・カトリシズム」の「反動主義者」集団を解散させ、4回にわたる公式批判集会に引きずり出した。
  • 2010年10月、Bao Gia Lai 紙は、Gia Lai州のKrong Pa地区で、「デガ・カトリシズム」と関係する567世帯が自分たちの信仰を放棄したと伝えた。自治体長が、残る15世帯に連日圧力をかけたことにより、最終的に信仰を捨てることを約束させた、と報じた。
  • 2010年9月中、Cong An Nhan Dan(人民警察)新聞は、Gia Lai州のDuc Co地区で、警察が地元当局と共同で、公式の批判式典を数回にわたって開催したと報道。9月29日の集会で、Gia Lai州のDuc Co地区の4つの村から50人が召喚され、8月25日に起きたゴム農園での暴動時に「治安と秩序を乱した」として、自治体住民の群衆の前で公然と非難された。報道によると、彼らは過ちを認めた後、デガ・カトリシズムならびにその他の「反動主義者」集団と手を切ると約束した。
  • 2010年7月12日、Bao Gia Lai紙は、Gia Lai 州Chu Se 地区のTok村と Roh村で、 97世帯の297人が、「自ら進んで」デガ・カトリシズムを捨てたと報道した。
  • Dak Nong 州の共産党機関新聞Bao Dak Nong 紙によると、2010年6月6日、Dak Nong 州Dak Mil地区で、「国家安全保障のための大規模運動」の開始を祝う公の式典があった。その一環として、2人の男がデガ・カトリシズムならびにその他の「反動主義者」集団を支持していると、公の場で告白させられた。

2001年以来、数千人のベトナム山岳民族が、政府の厳しい弾圧を逃れてカンボジアに渡った。そのほとんどが難民として認定され、​​米国、スウェーデン、フィンランド、カナダに移住した。

2010年12月、カンボジア政府はプノンペンにある山岳民族難民センターを閉鎖するよう国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR) に命令。 2011年2月15日の同センター閉鎖にともない、ベトナム当局の弾圧から逃れようとしている山岳民族には、他にほとんど取るべき手段がなくなっている。

「ベトナム政府が組織的な基本的人権侵害を続ける限り、山岳民族たちはベトナムからの避難を続けるだろう。ベトナム政府は、ただちにこの弾圧を止める必要がある。」とロバートソンは述べた。

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