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アフガニスタン:戦争犯罪人に対する恩赦法 撤廃を

恩赦法施行で、残虐行為が、不問に付されることに

(ニューヨーク、2010年3月10日)-戦争犯罪人や人道に対する罪を犯した者に恩赦を与えるアフガニスタン法の施行が公告された。アフガニスタン政府は、この恩赦法の撤廃に向け早急に行動すべきであると、本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

これまでハーミド・カルザイ大統領は、恩赦法の施行を許可することはないと繰り返し述べていた。それにもかかわらず、同法の施行が官報上で予期せず公告された。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは、「アフガンでは戦争犯罪人や人権侵害の疑いがある人物が、未だ多くの公職に就いている。そのため、人びとの間で政府に対する失望が広がっている」と述べる。「恩赦法は、これらの人物を刑事追訴から守るための法律だ。これでは、人権侵害者たちがその座を追われるどころか、もっと多くが新たに政権の一員として迎えられるかもしれないというメッセージを、アフガンの人びとに送っているようなものだ。」

国家和解法は、過去数十年の間に広範な人権の蹂躙を行なった人物たちの刑事追訴を阻止する目的の法律。有力な軍閥政治家とその支持者たちの支持の結果、2007年に議会を通過した。 恩赦法では、2001年12月の暫定政権発足以前に武力紛争に関与した人物が、「すべての法的権利を享受し、起訴されることはない」と定めている。

アフガンで活動する24の市民団体で構成された、「移行期の正義(トランジショナルジャスティス)調整グループ」は、恩赦法の撤廃を求め3月10日付けで声明を発表、ヒューマン・ライツ・ウォッチもこれを支持した。声明内で同団体は、「アフガンにおける真の和解と平和の実現のためには、これまで行われてきた犯罪を忘れ去るのではなく、その責任を追及・処罰することが前提条件である。同法の施行により、すべてのアフガン人が苦しむことになるだろう。これは法の正義と法の支配を反故にするものだ」と述べた。

30年間続いた戦争は、アフガンの主たる民族や政治団体すべてに、深刻な人権侵害をもたらした。例えば、紛争時の大規模な残虐行為、超法規的処刑、強制失踪、戦争の手段としてのレイプなどの人権侵害が犯された。なお ヒューマン・ライツ・ウォッチは、その報告書「血まみれの手:カブールで起きた残虐行為及びアフガニスタンにおける不処罰の遺産」で、特にひどい人権蹂躙行為のあった1992年~1993年の実態をまとめている。

恩赦法が可決されたのは、折りしも、残虐な軍閥たちの処罰がなされていないことに対し、アフガン世論の反発の声が高まり始めた時期だった。アフガン独立人権委員会(AIHRC) が2005年に発表した世論調査によると、国民の大半が軍閥の刑事追訴を支持。 当時、アフガン政府、国連、アフガン独立人権委員会、アフガニスタンを支援する諸外国政府などは、政府の「移行期正義に関する行動計画」(アクション・プラン)を採択し、このプランに基づいて過去の人権侵害にいかに取り組むかを議論していた。 2006年になるとアフガン政府は、「アフガンにおける平和・和解・正義のための行動計画」(平和、和解、正義についてのアクション・プラン)を発表し、次の3点を公約した。 1) アフガン国民が味わった苦難を認める、2) 国家機関は信用に足りるアカウンタビリティ(訴追)を行い、人権侵害や犯罪を犯した人物を公職追放する、 3) 過去の真相解明とその文書化に取り組む、4) 国民和解とひとつの国民としての団結の促進に努める。

恩赦法が2007年に議会で可決された後、カルザイ大統領は同法には署名しないと述べていた。アフガン独立人権委員会委員長シマ・サマル博士は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに「大統領は自ら二度も、恩赦法には署名しないと約束しました」と語った。大統領から同法を施行しない確約を得ていたという。大統領はこれに加え、いくつかの市民団体に対しても、同様の約束をしていた。それにもかかわらず、同法は官報で公告された。官報上にある同法の日付が2008年12月だった一方で、官報を監視する団体の手に実際に印刷版が渡った2010年1月までは公告されてなかったとする情報もあり、結果として同法の正式な公布日も明らかではない。

前出のアダムズは、「カルザイ大統領は、この件について明らかにせねばならない」と述べた。「多くのアフガン人を死と苦悩に追いやった人物たちをなぜかばうのか。国民の権利を守るべきはずの大統領が、なぜ軍閥との関係をより重要視するのか。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この恩赦法が、戦争犯罪を犯したタリバン構成員などの反政府組織構成員の刑事提訴免責に利用される可能性を懸念している。アフガン政府及びアフガン政府を支援する諸外国政府は、和解プロセスを、対反政府武装勢力戦略の柱のひとつにしている。ファウジア・クフィ議員は、 「恩赦法はこれまで3年間近くお蔵入りしていた。が、大統領は今、自らや仲間の利益のためにタリバンに話をつけたがっている。それで恩赦法を施行したのだ」という。

同法により、現在アフガン政府と交戦状態にある人に対しても、政府との和解を条件に、刑事免責が保証される。つまり、事実上、将来の犯罪に対しても恩赦を与える内容となっている。

「この恩赦法は、将来の人権侵害を引き起こす引き金になるものだ」と前出のアダムズは述べる。「反政府組織の司令官たちは、この恩赦法のおかげで、大量殺戮の罪からも逃れられる。 政府に参加して武装闘争を放棄すると宣言するだけで、人道に対する罪などの過去の暴力や犯罪のすべてが許されるというわけだ。」

恩赦法を支持する人びとは、同法律下においても、個人が加害者に対して犯罪の被害申立を行なうことは可能だと主張する。 しかしながら国際法は、超法規的殺害や拷問、強制失踪などの人道に対する罪、戦争犯罪、その他重大な人権侵害を捜査し、犯罪人を訴追する義務は国家にあると定めている。これを個人に転嫁することはできない。

事実アフガニスタンでは、個人が司法制度を利用することはかなり困難だ。国家の法制度は、ほとんど機能しておらず、汚職も横行しており、証人保護制度も存在しない。

2月10日、恩赦法と先の行動計画(アクションプラン)の乖離についての質問に対し、大統領報道官ワヒド・オマール氏は、「移行期の正義は政府が実行するものではなく」、その責任は市民社会にあると述べた。これは、個人が裁判を起こす権利が保障されている限りは問題にならないとした、米国政府当局者らの私的見解をそのまま繰り返した形だ。

「個人が、重大な戦争犯罪を裁判に持ち込めるなどと考えるのは、幻想にすぎない」と前出のアダムズは述べる。「被害を受けた一般市民が権力者に異を唱えれば、自らと家族を深刻な危険にさらすことになるだけだ。それが実効的な法の正義の実現方法だと勧めること自体が危険だ。」

恩赦法が2007年に議会を通過した際、国連と諸外国政府の多くはこれに反対した。しかし、 同法の施行が官報に掲載された後、国際社会から出たこれに関するコメントや非難はごくわずかだ。

前出のアダムズは、「この法律の存在は、米国をはじめとするアフガニスタン支援国やカルザイ大統領自身の原理原則に対する試金石となろう」と述べた。「人権を蹂躙した軍閥や反政府勢力と、アフガニスタンの人びと、一体どちらの側につくのかという問題だ。」

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