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ネパール:内戦の恐怖は終わるも、約束は果たされぬまま

10年にわたった内戦での暗殺と拷問 今こそ捜査と訴追を

(カトマンズ)-10年間続いた内戦が終結して3年が経過するネパール。しかし、政府は、内戦中におきた数千件もの超法規的処刑・拷問・強制失踪に対して、信頼に足る捜査を行なわず、責任者も訴追していない、とヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは本日公表した共同の報告書で述べた。

47ページの報告書「法の正義は未だ訪れぬ:内戦後のネパールで続く不処罰」はネパール政府に、ネパール内戦の中の犯罪の責任者を捜査し訴追することを求めている。2006年和平協定では犯罪訴追が約束された。しかし、政治的意思とコンセンサスの欠如、広範な政治的不安定、そして和平プロセスの停滞などの結果、ネパール政府は約束を果たしていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは述べた。

「政治家、警察、検察、軍、すべてが再びネパール国民を見捨てている」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは語った。「政府には犯人訴追のために行動をとる十分な時間があった。しかし、実際には、空虚な約束がされただけだった。」

本報告書は、2008年公表のレポート『正義を待ちわびて:放置されたままのネパール内戦中の残虐行為に関する報告 ("Waiting for Justice: Unpunished Crimes from Nepal's Armed Conflict")』のフォローアップの報告書。このレポートで調査報告した暗殺・拷問・強制失踪の62のケース(2002年から2006年におきた)について、最近の状況を追加調査したものである。報告書に記載されている人権侵害のほとんどは治安部隊が行なった犯罪であるが、毛沢東派反乱軍が関与していた事件もいくつかある。

暗殺の被害者の遺族や、失踪被害者の家族は、警察に対し、刑事捜査を求めて詳細な告発状を提出した。しかし、これまで、ネパールの司法制度は、情けなくなるほど何の対応もできていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは述べた。

62の事件のうち10の事件については、警察は未だに刑事告発の受理を拒否している。しかも、その一部については、受理せよという裁判所の命令に逆らってまで受理を拒否している。告発状が受理された事件のうち24の事件については、捜査が行われているという兆しはない。およそ13の事件については、警察は関係機関に書類を送付し、取り調べを行なうため容疑者に協力を求めたようである。しかし、国軍も武装警察部隊も毛沢東派も、協力を拒否している。

これまでに、重大な人権侵害容疑により文民法廷の裁判にかけられた者はひとりもいない。政党は、党員を守るため、警察に対し、事件の捜査を行なわないよう圧力をかけている。警察・検察・裁判所は、いずれも、法の正義実現を妨害・遅延するための様々な戦略をめぐらした。そして、アカウンタビリティー(法の正義の実現)に長年抗して来た当局機関たち(最も悪名高いのはネパール軍)は1歩も譲らず、警察の捜査への協力を断固拒否している。

「多くの遅延や障害を前に、犠牲者の家族たちは、真実と法の正義実現を求めてあまりに長い間闘いを強いられてきた」とマンディラ・シャルマ(Mandira Sharma)アドボカシー・フォーラム代表は語った。「私たちの最新報告書を公表してから1年が経過するが、告発の受理を命じる裁判所の命令さえ、警察は未だに拒否している。」

違法行為に対する効果的な刑事捜査を阻害する原因となってきた法律についても、ネパール政府はこれを改正できていない。しかも、失踪に対する事実調査委員会や真実和解委員会など、和平合意で約束されたトランジショナルジャスティス(移行期の正義・司法)のメカニズムの設置に関しても殆ど進展がないままだ。

本報告書で、ヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは、ネパール政府に以下を要求した。

●この報告書が取り扱った62の人権侵害事件はもちろん、その他の人権侵害事件についても、治安部隊のメンバーを含む全ての責任者を捜査し訴追すること

●ネパール軍に対する容疑を調査するため、検事総長の下、上級警察捜査官で構成する特別ユニットを設置するとともに、ネパール警察に対する独立した監視機関を創設すること

●国際基準に則った形で、真実和解委員会及び失踪に対する事実調査委員会を設立すること。但し、重大な人権侵害に対する恩赦は与えないこと。

本報告書は、ネパールに対する影響力を有する諸外国及び諸機関に対し、治安部隊に対する効果的なアカウンタビリティー(責任の追及と透明性の確保)メカニズムの設置及び公職追放手続の導入など、治安部隊の改革を働きかけるよう求めた。

「ネパール政府は、警察がこれらの捜査を行なうことを支援し、法の支配と国の機関に対する国民の信頼の回復に努めるべきだ」とアダムズは語った。「ネパールに経済援助をしている諸外国は、治安セクターの改革を支援するべきだ。警察の政治的意思が国内外で存在して始めて、法の正義を実現することができる。」

報告書の中の証言から抜粋

「今のネパールに正義はない。法の支配も政府もないよ。政府の高官でも、法の正義から逃げられないようなネパールをいつか見てみたい。治安部隊を処罰すべきだよ。治安部隊は、市民を殺すために雇われているんじゃないんだから。人権侵害の責任者はすべて、裁判にかけられるべきだ。」

-ドージ・ダーミ(Dhoj Dhami)、2005年2月にカンチャンプル(Kanchanpur)で治安部隊に殺害されたジャヤ・ラル・ダーミの叔父

「第一情報報告書(First Information Report:FIR、被害届)を警察に提出した時には、これで子どもたちのために、正義を勝ち取れるかな?なんて期待したわ。容疑者が処罰されて、私たち家族は、子どもたちの生活と教育に対する賠償金がもらえる、なんてね。法の正義を求めて闘い始めて何年も経つけど、何も起こりゃしない。警察署に何度も行ったけど、捜査には何の進展もないのよ。政府は法の正義を実現しようなんて気はないと思う。だから、多くは期待していない。」

-ブーミ・サラ・タパ(Bhumi Sara Thapa)、2002年9月バルディヤ(Bardiya Distric)で治安部隊に殺害されたダル・バハドゥル・タパ(Dal Bahadur Thapa)とパルバティ・タパ(Parbati Thapa)の母親

「私は一度プラチャンダ[ネパール統一共産党(毛沢東派)議長]に会ったのよ。拉致された夫に何がおきたのか、真実を明らかにして、それを知らせてくれるって約束した。その後も何度も彼に会おうとしたけれど、今まで何の情報ももらえてないわ。」

-プルニマヤ・ラマ(Purnimaya Lama)、2005年4月毛沢東派に拉致されたアルジュン・ラマ(Arjun Lama)の妻

「2009年2月3日に最高裁判所の命令が出た。それでも、地域警察署(District Police Office:DPO)のダーヌシャ(Dhanusha)は第一情報報告書(First Information Report:FIR、被害届)を法律に従って受理しようとしない。少なくとも3回DPOを訪れて、副署長に会ったり、署長に会ったりもしたけれど、事件の捜査には何の進展もない。警察は法律に沿って仕事をする気があるとは思えないよ。」

-ジャイ・キショル・ラブー(Jay Kishor Labh)、2003年10月警察に逮捕された後に失踪したサンジーブ・クマル・カルナ(Sanjeev Kumar Karna)の父親

「警察に告発状が出された人権侵害事件は沢山ある。多くの場合、関与しているのは高い地位にある役人だよ。あの人たちは影響力のある地位にいるから、捜査するのは難しいんだ。」

-カスキ地域のポカラ警察警視正補、匿名希望

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