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インド: 人権侵害に手を染める警察の徹底的な改革を

問題だらけのインド警察とその無責任体質ゆえに人権状況が悪化

(バンガロール)インド警察は、人権状況の悪化に拍車をかけ、しかも、自ら人権侵害に手を染めている。インド政府は、そうした警察システムの徹底的な改革を行うべきである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書でこのように述べた。過去数十年間、歴代のインド政権は、法を犯した警察官を処罰し、人権を尊重するプロ意識の高い警察官を養成すると約束してきた。しかし未だにその約束は果たされていない。


本日発表された報告書「インド警察の諸問題:機能不全、虐待、無責任体質について」(118ページ)は、インド警察による恣意的逮捕、拘留、虐待、裁判なしの処刑などの人権侵害を紹介している。報告書では80人以上の様々なポジションの警察官と60人の被害者を聞き取り調査。さらに専門家や活動家との間で行なわれた多くのディスカッションを基に作成された。報告書には、インドの州警察が倫理観やプロ意識に欠如し、法を無視して活動している現状や、人員不足やミスマッチにより犯罪者にしっかりと対応できていない状況が克明に記載されている。そして、インド警察が、犯罪捜査のニーズに応える人員もなく、市民の期待にも応えられずにいる状態も明らかにされている。現地での調査は、ウッタルプラデシュ、カルナータカ、ヒマチャル・プラデシュ、そして首都のデリーの19箇所の警察署で行われた。

「インドは早いスピードで現代化しているが、インド警察は虐待と脅しという古い手段を未だに使っている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「政府は改革を叫ぶだけでなく、実際に改革を行なう必要がある。」


ワーラーナシーのある果物売りが、無関係の案件についての複数の自白強要のために、警察から拷問を受けた経験を語ってくれた。

「私の手と足は縛り上げられて、木の棒が足の間に通された。それからlathis(警棒)で足を何度も殴られ、蹴られた。彼らは『13人のギャングの名前を答えろ』と言っていた。殴られつづけて、とうとう、助けを求めて泣き叫んだ。気を失いそうになったとき、やっと警官は殴るのをやめた。そして『こんな鞭打ち、お化けだって逃げるって言うのに、どうして私の知りたいことを教えてくれないんだ?』と言い、私を逆さづりにした。それから、水差しから私の口と鼻に水を注いだ。私はとうとう気を失ってしまったよ。」


警察による人権侵害に関するさらに詳しい被害者の証言はこちら

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査に対し、虐待が日常的に行われていると認めた警察官もいた。ある警官は「エンカウンター・キリング」を命じられた、と述べた。容疑者を逮捕して超法規的に処刑してしまうことはよく行なわれている。「私は標的を探す。彼にしよう・・・刑務所に入るのは怖いが、もしここでやらなければこの仕事を失うことになるのだから。」


ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査を行なった警官のほとんどが、法の境界線を意識していた。しかし、違法な身柄拘束や拷問などの非合法的な手段は、犯罪捜査や法執行のために必要不可欠なものであると多くの警察官が信じていた。

今年5月の総選挙で誕生した新政権も、しっかりと警察の改革を行なうと約束。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人権侵害を犯した警察官は、その地位にかかわらず、すべて適切な処罰を受けるようにすることが重要な一歩である、と述べた。

「拷問などの虐待を実行した警察官および命令した上司も、犯罪者として扱われるべきである。一般市民が法を犯せば処罰されるが、警察官であれば処罰されないという二重基準はなくすべきだ」とアダムズは述べた。

また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、警官による虐待に釈明の余地はないとはいえ、警官の過酷な勤務実態ゆえに、違法行為が助長されている、と述べた。特に、位の低い警官の勤務は過酷である。彼らは毎日24時間体制で呼び出しに答え、シフト制ではないので長時間労働に従事せざるをえず、時には警察署のテントや不潔なバラック住むこともある。多くの警官が長い間家族と離れ離れになっている。また、車や携帯、捜査に必要な装備、苦情を聞きメモをするための紙さえ不足していることも少なくない。

警官たちがヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったところによると、人材や装備が不足したまま圧倒的な量の労働をこなすため、彼らは「近道」を使うという。例えば、犯罪を立件しないですむよう、被害届を受理しない。多くの警官が、上司から早く案件を処理するよう催促され、非現実的なプレッシャーの下にあると訴えていた。科学的証拠や目撃証言を集めるようにとの指示はほとんどなく、逆に時間の無駄であると考えられている。ゆえに、違法に容疑者を拘束し、拷問や虐待を使ってでも、自白の強要を迫るのである。

「警察官に対するインセンティブと勤務状況を変える必要がある。警官は、上司の要求に応えるため、または命令により、虐待に走ってしまうという状況に追い込まれるべきではない。警察官たちが倫理観のあるプロの警察官として活躍するためには、十分な人員、訓練、装備が必要であるとともに、プロフェッショナリズムと倫理的な行動を奨励する必要がある。」

報告書「インド警察の諸問題」では、長い間、インド社会の中のマイノリティが警察による虐待の犠牲になりやすい状況に置かれてきたことについての述べている。貧しい人々、女性、ダリット (別名「不可触賤民」と呼ばれるヒンドゥー教最下層の人々)、宗教的マイノリティや性的マイノリティなどの少数者たちのことである。警察は、こうしたマイノリティが被害者となった事件を捜査しないことが少なくない。差別感情や賄賂の支払いがないこと、あるいは、社会的地位の欠如や政治的なコネがないことなどが理由である。こうしたマイノリティの人々は、逆に、恣意的に逮捕されたり拷問されたりすることも多いほか、特に厳罰の対象にされることも多い。

植民地時代に成立した警察関係諸法は、州の政治家や地元政治家が警察業務に頻繁に介入することを認めている。その結果、政治家たちは、犯罪を犯していると知りながらも政治的にコネのある人物への捜査を打ち切らせたり、政敵に嫌がらせを行なったり事実無根の訴追を行なうよう指示することもある。その結果、国民の警察に対する信頼を失わせている。


2006年、警察関係諸法の改革を進めるよう命じる画期的な最高裁判所の判決が下された。しかし、中央政府も多くの州政府も、ほとんどこの裁判所の命令を実行できずにいる。警察高官らは、人権侵害に関与した警察官の処罰などの包括的な警察改革の緊急性を、政府が未だに理解できていないことのあらわれであるというほかない。

「警察は法を超越した存在だという考えが、世界最大の民主主義国家たるインドの地位を傷つけている。インドの人々は恐怖心から、警察とは関わりたがらない。そうすると、被害届は出されず、犯人は処罰されない。そして、警察は、捜査や再発防止のために一般市民から協力を得られない。悪循環である。」とアダムスは述べた。

報告書「インド警察の諸問題」では、インドの政府委員会、元インド警察官、インドの地元グループなどの研究を参考にしつつ、警察改革の詳細を提案している。提案の概要は以下のとおり。

  • 逮捕や身柄拘束の際、警察は必ず容疑者の権利を読み聞かせること。
  • 拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱いによって得られた取調べ証拠は、裁判の証拠から排除すること。
  • 国や州の人権委員会や警察監察組織に対して行なわれた警察による虐待や違法行為の申し立てに対して、しっかりした独立した調査を行なうこと。
  • 訓練と装備を改善すること。例えば、警察学校での犯罪捜査カリキュラムを強化し、新米警官に対し犯罪捜査方法を訓練すること、科学的捜査のために必要な装備をすべての警察官に配布することなど。

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