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カンボジア:フン・セン首相は、反対や批判への攻撃やめよ

近年で、最も厳しい弾圧がカンボジアで進行中

(ニューヨーク)カンボジアのフン・セン政権は、自らの支配を強固にし、野党勢力や政権を批判する人々を黙らせる目的で、いやがらせ、脅し、司法権の濫用などの一連の弾圧を繰り返しているが、これをすぐに止めるべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

過去数ヶ月の間に、カンボジア政府高官や軍関係者たちは、政治的な動機に基づき、ジャーナリストや野党議員、弁護士などの政府に批判的な人々に対し、名誉毀損や虚偽情報流布の罪で、9件の刑事告訴を行なった。

「カンボジア政府は、近年で最も激しい表現の自由に対する弾圧を行なっている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは述べた。「ますます権威主義的になりつつあるフン・セン政権に対して平和的に批判をした人々を、フン・セン首相は、またしても、刑務所送りにしようとしている。」

過去数週間に、政府が表現の自由を侵害した事件の例:

  • 2009年6月22日、カンボジア議会は、野党サム・レンシー党(SRP)の主要メンバーである、ムー・ソチュア(Mu Sochua)議員とホー・ヴァン(Ho Vann)議員の議員不逮捕特権を剥奪することを可決した。これにより、フン・セン首相と22人の軍当局者に対する名誉毀損ので、この2名を裁くことが可能となった。
  • 6月26日、プノンペン裁判所は、野党系新聞のクメール・マカス・スロック(Khmer Machas Srok)が掲載した政府の汚職に関する記事を偽情報であるとし、同新聞社の経営者であるハン・チャクラ( Hang Chakra)氏に懲役1年の有罪判決を下した。
  • 野党SRPの党員を弁護する数少ない独立した立場の弁護士のひとりコング・サム・オン(Kong Sam Onn)氏は、フン・セン首相に名誉毀損の罪で告訴されたほか、サム・レンシー党のムー・ソチュア氏を弁護したとの理由で、カンボジア弁護士会から弁護士資格を剥奪すると脅迫された。その結果、7月7日に、コング・サム・オン弁護士は、与党カンボジア人民党(CPP)の支持を表明し、ムー・ソチュア氏とホー・ヴァン氏の弁護を中断するという「転向」に追い込まれた。
  • 7月10日、カンボジアで最も歴史が長く、影響力の大きい野党紙のひとつであるモニークシーカー・クメール(Moneaksekar Khmer)紙の経営者ダム・シス(Dam Sith)氏は、政府当局者の批判記事を掲載したことに対する訴追を避けるため、同紙の廃刊に追い込まれた。 
  • 7月14日、非営利団体Khmer Civilization Foundation代表のムエング・ソン(Moeung Sonn)氏は、アンコール遺跡への照明設置に懸念を表したため、本人が不在のまま、虚偽情報の罪で懲役2年の判決をうけた。


野党議員ホー・ヴァン氏とムー・ソチュア氏の裁判は、7月17日と24日に予定されているが、コング・サム・オン弁護士が彼らの弁護を辞任した後、他の弁護士を見つけることができないでいる。

「ホー・ヴァン氏とムー・ソチュア氏が有罪判決を下されるならば、政権の政策に最も声高に反対している議員を、永久に失う可能性も出てくる」、とアダムズは述べた。「複数政党制の民主主義、法の支配、弁護士の独立、そして表現の自由など、とても重要な価値が危機にさらされている。」

モニークシーカー・クメール紙の編集者であるダム・シス(Dam Sith)氏は、野党サム・レンシー党の理事のひとりだった。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、7月10日に、カンボジア政府がシス氏を名誉毀損、虚偽情報流布、そして反政府活動の誘因の罪で告訴したことをきっかけに、同紙が強制的に廃刊となったことに対し懸念を示した。7月8日に、シス氏がフン・セン首相に謝罪の手紙を送り、その中で同紙の廃刊を約束したことにより、彼に対する告訴は取り下げられた。

1993年にプノンペンで出版を開始して以来、モニークシーカー・クメール紙は常に脅迫にさらされ続け、スタッフの一人の殺害事件にまで発展している。同紙の記者であったキム・サンボ(Khim Sambo)氏は、翌月に国政選挙を控えた2008年7月に暗殺された。ダム・シス氏が6月に1週間の拘留(虚偽情報流布の罪で外務大臣から告訴された)された直後のことだった。

過去にも、サム・レンシー党系の2つの主要新聞が、政府の攻撃の目標とされた。2009年6月末に、クメールのマッカススロック紙(Machas Srokのオーナーであるハン・ チャックラ(Hang Chakra)氏は、ソック・アン(Sok An)副首相の汚職に関する記事を掲載したため、虚偽情報流布の罪で懲役1年の判決をうけた。

2008年には、サムレンシー党系新聞スララン・クメール(Sralang Khmer)の編集者で、同党の理事も務めていたタック・ケット(Thach Ket)氏が、離党を要求する脅迫をうけた。当時、政府与党は、脅迫や勧誘といった手法で、野党の指導者たちに対し離党への圧力をかけていた。この脅迫事件の後突然、スララン・クメール紙は与党支持に転向した

名誉毀損の罪の濫用事件が続く中でも最もひどい事案は、6月初めに起きたサム・レンシー党の若手活動家ソーン・ソホーン(Soung Sophorn)氏に対する有罪判決であろう。彼は、自宅の外側の壁に政府を批判するスローガンを書いた。その後、与党の上院議が所有している土地の開発のため、彼は自宅から強制的な立ち退きを強いられた。

最近の訴追はすべて、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)により1992年に公布された暫定刑法の62条(虚偽情報流布)と63条(名誉毀損)に基づく。これらの条文を広く解釈することで、訴追を行なっている。2006年、懲役刑は、名誉毀損罪の処罰から除かれた。しかし、名誉毀損が犯罪とされていることに変わりはない。また、虚偽情報流布に対しては、最高3年の禁固刑が科される。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、名誉毀損を刑事犯罪とする法律は国際的に保護されている表現の自由の権利を侵害するとともに、政権を批判する人びとやメディアに危険を及ぼす、と述べた。

度重なる訴追は、政権を批判する声を事実上奪っている。7月9日、サム・レンシー党のソン・チャイ(Son Chhay)議員は、ラジオ・オーストラリアとのインタビューで以下のように述べた。「我々に選択肢はありません。しばらくの間、静かにしているしかないのです。政治汚職の問題や、土地の横領、腐敗した司法制度について、話すつもりはありません。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、カンボジア政府に資金を提供している外国政府、特に法の支配、司法改革、人権保護、良き統治(グッド・ガバナンス)を目的とした支援を行っている国々に対し、政権を批判する人びとに対するカンボジア政府の攻撃や、司法措置の濫用を止めることを要求するよう求めた。

「カンボジアで最後の野党系新聞が廃刊となった今、政府に批判的な報道をしたり、平和的な政府批判を行うことは、急速に困難になっている」、とアダムズは述べた。「フン・セン首相をはじめとする政府当局が、ジャーナリストが職務を全うするのを妨害している。こうした表現の自由に対する監獄行きの脅迫を終わらせるため、平和的な発言を犯罪とするカンボジアの法律は、廃止されるべきだ。」

「暴力、脅迫、金権政治を通して、フン・セン首相はすでにカンボジアの政治をほぼ全ての面を完全に支配している」、とアダムズは述べた。「それでも、政権を批判するあらゆる声を奪うため、フン・セン首相は猛進し続けている。なぜ、フン・セン首相は、今になっても、毎日、訴追する敵を探しながら目覚めるような毎日を送っているのか。こんな状態はいつまで続くのか。」

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