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ビルマ:潘基文 国連事務総長のビルマ訪問に求められるのは具体的成果

事務総長は政治囚、選挙、政治対話、民族少数者問題に明確な立場表明を

 (ニューヨーク) - 潘基文国連事務総長は、今回のビルマ訪問にあたり、ビルマ軍事政権首脳に対して、全政治囚の釈放と、真の政治改革に至る反対勢力との対話の実施を公約するよう強く働きかけるべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日このように述べた。潘事務総長は、軍事政権に反対する勢力の指導者アウンサンスーチー氏の自宅軟禁の再開や、政治改革に関する曖昧な言葉を、訪問が成功した証として受け入れるべきではない。

潘事務総長は、2009年7月3日からビルマを訪れる。この日は、政治的に訴追されているアウンサンスーチー氏の公判が再開される予定の日でもある。7月1日、訪問先の東京で、潘事務総長は、最重要のベンチマークのうちの3つを具体的に明らかにし、ひとつに全政治囚の釈放、そしてビルマの軍事政権と反対勢力指導者間での国民和解に向けた対話の即時再開、そして「来年〔2010年〕に、中立性、透明性、民主性が高度に担保された上で行われるべき」信頼性のある総選挙への条件作りであると指摘。潘事務総長の指摘は正しい。

「潘事務総長がビルマ軍政首脳に対し示しているのは、国際的孤立を終わらせるための行程表だ」、とヒューマン・ライツ・ウォッチのエクゼクティブディレクターであるケネス・ロスは述べた。「事務総長は、時間稼ぎや駆け引きの時間はもう終わりであること、今必要なのは本当の変化であることをはっきりさせるべきだ。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ビルマの人権状況が現在悪化していると述べた。政治活動家への恣意的拘束や脅迫、虐待は増加している。この2年で政治囚の数は倍増し、2100人に上る。少数民族への武力攻撃によって、大量の避難民が発生し続けている。表現・結社・集会に関する基本的な自由は、依然としてほとんど存在していない。

潘事務総長はアウンサンスーチー氏を政治改革の「重要なパートナー」と認めており、氏が拘禁され、裁判にかけられている最近の事態を「絶対に受け入れがたい」としている。スーチー氏は5月中旬に政治的な理由によって起訴され、自宅から刑務所に身柄を移された。氏はこの20年のうち14年以上を自宅軟禁下で過ごしている。

現在拘禁中の人権活動家には、労働活動家スースーヌウェ氏、元学生指導者ミンコーナイン氏、政治活動に関わる仏教僧ガンビラ師などがいる。軍政はサイクロン「ナルギス」の被災者救援にあたった、現地の支援ボランティアのうち少なくとも21人に不当な裁判を行い、投獄している。ビルマで最も有名な喜劇俳優で、59年から35年に刑期が短縮されたザーガナ氏もその一人だ。

「国連は再三にわたってアウンサンスーチー氏の釈放を丁重に求めてきた。だが氏が刑務所から「釈放」されて再び自宅軟禁されるようなことがあれば、大きな失敗になってしまう」とロスは述べた。「潘事務総長の前回のビルマ訪問はサイクロン「ナルギス」後のことだった。しかし、喜劇俳優のザーガナ氏など、政府の救援体制を批判したとして投獄された支援ボランティアたちは、いまだに釈放されていない。」

ビルマ軍事政権は、2010年に総選挙を実施すると発表し、これを政治プロセスの次段階として位置づけている。しかし、この政治プロセスは、15年以上もかかっている見せかけだけのものだ。しかも、現在の情勢下では信頼性のある選挙の実施は不可能だ。じじつ多くの反政府活動家が投獄され、アウンサンスーチー氏が率いる反対政党・国民民主連盟(NLD)の事務所の多くが強制的に閉鎖されており、表現・集会・結社の自由は著しく後退している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、潘事務総長が軍事政権に対して、2010年総選挙が信頼性のあるものと受け取られる可能性を少しでも存在させるため、表現・集会・結社の自由に関する規制を直ちに解除するよう、強く働き掛けるべきだと述べた。潘基文事務総長は、すべての政党と民族グループが自由に参加することができる真のプロセスにこだわるべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、潘事務総長に対して、選挙に先だって行われている国境地域での民族間対立の増加について深い懸念を表明すること、また国際人権と国際人道法の尊重義務があることをビルマ政府に明確に指摘することを求めた。ここ数週間で、ビルマ国軍の攻撃によって、少数民族の一つカレン人4,000人以上が国境のタイ側に逃れている。ビルマ軍と民族武装組織の緊張が高まっていることは、国家の改革プロセスが全体として失敗していることを示している。

ビルマ政府は、民族的少数者であるロヒンギャ・ムスリムへの継続的な迫害の停止を公けに約束すべきである。政府はロヒンギャにビルマ国籍を長らく認めていない。

国連は、近年、ビルマ軍事政権と国民民主連盟との間の調停役を試みているが、具体的な成果はえられていない。ビルマに関する国連事務総長特使イブラヒム・ガンバリ氏は、これまでも何度かビルマを訪問しており、前回の訪問は潘事務総長の訪問準備のためのものだった。

「ビルマ軍政首脳が、2010年総選挙を正当化するために、潘事務総長の訪問をだしにする危険は現に存在している」とロスは述べた。「もし改革を行うとの言質がまったく取れないのであれば、潘事務総長は、基本的な自由や民主主義といった考え方自体を愚弄するプロセスに正当性は一切認められないと明言すべきだ。事務総長のこうした発言は、ビルマの人々の期待をこれまで裏切ってきた国連安全保障理事会や域内の諸組織に対する強いメッセージとなるだろう。」

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