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インドネシア:パプアで特殊部隊による虐待が続く

軍事協力を行なう諸外国は、インドネシア政府に責任追及を求めよ

(ニューヨーク)-インドネシア政府は、精鋭特殊部隊コパスス(Kopassus:コマンド・パスカン・クススKomando Pasukan Khusus)が犯した人権侵害について、公平な調査を独立して行なうべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。

16ページの報告書「『俺が何をした?』:メラウケのパプアの人びとに対する特殊部隊の虐待」は、インドネシア最東部パプア州メラウケの町で活動するコパスス兵士たちが、法的権限もないまま、パプアの人びとを逮捕し、兵舎に連行して暴行を加え、虐待している実態を取りまとめている。

コパススは、過去に様々な人権侵害に手を染め、しかも、虐待を行った者の責任を追及せずに放置し続けている。こうした不処罰問題は、インドネシア全域、とりわけ1970年代以降の東チモール、アチェ、パプア、ジャワで深刻である。「インドネシア政府が、人権侵害を行なった兵士の責任をしっかり追及し、虐待をとめるために真摯な努力を行なうまで、米国、英国、そしてオーストラリアは、コパススへの訓練を差し控えるべきである」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチは求めた。

「人権を尊重する諸外国政府は、コパススとの協力関係樹立を正式に承認するまえに、人権侵害を行なった兵士の責任の追及はもちろん、改革に向けた明確な政治意思を強く要求するべきである」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムズは述べた。「インドネシア政府が、兵士によるいかなる虐待も許さない、とコパススに言明しない限り、訓練も馬の耳に念仏となってしまう。」

本報告書は、虐待の犠牲者、家族、目撃者などに対する20を超える聞き取り調査に基づき作成。パプアのコパスス兵士たちが行った行いの詳細を明らかにしている。ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査し明らかにした事件は、2007年8月から2009年5月の間にメラウケで起きた。こうした事件は政治的動機に基づいたものではないようで、むしろ、その原因は、虐待をしても責任を問われないと知っている兵士たちが虐待に抵抗がなくなっていることや、コパスス指揮命令系統がしっかり機能していないことなどにあると考えられる。

パプアの人びとは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、コパスス兵士たちが、メラウケの街頭や自宅などで、自分たちを法的権限もなしに逮捕した、と語った。兵士たちは制服を着用しておらず、正式な警察活動を行なっていたわけではない。それでも、公共の秩序が乱れたと自分たちが思う事態が起きるや、人びとを逮捕した。

逮捕されてコパススの施設に連行された者は、多くの場合虐待される。逮捕を経験した人びとは、兵士たちが、血がでるまでゴムホースで暴行したことや、とても辛い生トウガラシを噛むよう強制されたことなど、詳細を話してくれた。

コパススに拘束されたことのある者はヒューマン・ライツ・ウォッチにこのように語った。「奴らは俺たちの着てる物を剥ぎ取って下着だけにした。そして何にも言わずに、すぐ殴り始めた。水道ホースを使いやがるんだ。血が出て、切れるまで殴られた。次にテニスコートに行くよう言われた。そこで俺達は無理やり太陽の下に引きずり出されて、トウガラシを噛まされた・・・・。吐き出すのは許されなかった。ものすごく辛かったんだ。」

「このような無分別な暴行と虐待は、パプア人のコパススに対する恐怖心を増大させるだけだ」とアダムスは述べた。「政治的緊張とインドネシア治安部隊による虐待の長い歴史がある。これを乗り越えてパプアの人びとの信頼を再構築する唯一の道は、虐待を行った者に対し、透明性の高い公開手続きでもって訴追することだ。さもなくば、コパススの指揮官や兵士たちは、行動を改めないだろう。」

コパススは、過去、様々な人権侵害を行なってきたため、コパススと正式な協力関係を持つことをやめる政府もあった。しかし、近年、多くの政府が、特に対テロ対策の分野で、コパッススとの関係を再開。諸外国政府は、訓練はコパススのプロフェッショナリズムの改善に役立つ、と論陣を張ってきた。

オーストラリアはコパススとの定期的訓練を再開。英国は2009年10月に合同訓練を計画している。

米国のリーヒー(Leahy)修正は、人権侵害に手を染めた軍人の訓練を禁じている。しかし、ヒラリー・クリントン国務長官の最近の発言によれば、米軍とインドネシア軍の関係を強化する計画が進行中である。これは、コパスス要員の訓練を含む可能性がある。米国国務省下院2010年財政年度海外活動予算根拠資料(US State Department's Congressional Budget Justification for Foreign Operations)は、「インドネシア治安部隊内の改革を達成するため、両国の軍の間の財政援助や法執行組織への財政援助を増額し、法執行を専門的に発展するための能力を確立すること」を提案。「本資金援助の目的は、民主的社会における近代的な職業軍人部隊の確立をめざすインドネシア政府の努力を支援すること」とある。

インドネシア軍に不処罰が蔓延している。そのため、パプアでのコパススの評価を下げ続けている。2001年11月、ジャヤプラ(Jayapura)で、コパスス兵士らがパプア分離独立派の指導者ゼイス・エルアイ(Theys Eluay)を誘拐して殺害。国際的な批判が巻き起こり、インドネシア警察は調査に追い込まれた。しかしながら、幹部将校クラスはだれひとり責任を問われていない。下級将校たちが、虐待と暴行罪で有罪となったが、殺人罪の責任は問われなかった。

コパスス指揮官らは、自らの行動を改善し、人権侵害を予防するため、手段を講じた、と述べている。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、人権侵害は継続しており、法的責任追及がなされず不処罰のまま放置されるのが、今もなお日常茶飯事であることを明らかにしている。

パプアでは、人権侵害の実態を調査し取りまとめるのが、よりいっそう困難になっている。外国人の人権モニター(監視員)とジャーナリストの立ち入りが制限されているからである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、インドネシア政府に、そうした制限を撤廃することも求めた。

インドネシア軍はもう政治に参加はしないと述べる。しかし、2009年7月6日に行われる大統領及び副大統領選挙の候補者6人の内、3人が元軍将校であることをヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。現在、コパススを率いているのは、スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領の義理の弟プラモノ・エディ・ウィボウォ(Pramono Edhie Wibowo)准将である。

メガワティ・スカルノプトゥリ(Megawati Sukarnoputri)元大統領の副大統領候補として立候補しているプラボウォ・スビアント(Prabowo Subianto)は、コパススの司令官を長くつとめていた。そして、1983年、そして、1988年から1989年にかけて、東チモールで軍幹部将校をつとめた。インドネシアの前支配者スハルト失脚の際にコパススが残虐行為に手を染めたことを明らかにする報道がされ、1998年、プラボウォは軍を追われた。プラボウォは米国で訓練を受けていた。

「大統領候補者たちは軍と強く結びついている。そうした候補者たちが、コパススが虐待を行なっていたと認めてこれを批判するのであれば、コパススに対する強いメッセージになる」とアダムズは語った。「インドネシア軍が真に改革を実現しようとしているなら、パプアでのこれらの虐待に関与した軍人はもちろん、その他の過去の虐待に関与した軍人たちも捜査し、責任を問わなくてはならない。」

報告書のなかの証言から抜粋

「俺は交差点、水路までたどり着いて、倒れてしまった。奴ら(武装した男達)が来て、俺をつかみ、バンのスライドドアから引っ張り込んだ。(コパススの)兵舎に連れてって、暴行したんだ。俺を部屋に入れると、後ろ手に手錠を掛け、床にひざまずくよう言った。顔を殴られて、俺は倒れた。頭をかばえなかったんで、床で頭をうった。顔を何度も殴られて、顔から血が流れ、目も腫れた。ある兵隊が胸ぐらをつかみ、もう1人が腹を蹴った。それで俺は聞いたんだ。"俺が何をした?"」

-"アントニウス(21歳Antonius)" 2008年9月、街頭パーティーに参加していたところに、コパスス兵士たちの乗ったバンに押し込まれて、暴行された事件

「コパススの兵士が蹴ったんだ。奴らはアンドリューを素っ裸にし、1人のコパスス兵士が携帯電話で写真を撮りやがった。沢山の人が、構内で俺たちが拷問されているのを見てたよ。ある年老いたパプアの女性は、俺たちがコパスス兵士に拷問されているのを、見ているしか出来なくて、泣いてた。」

-"ニコラス(27歳Nicolaas)" 2008年4月コパスス兵士に自宅から連行された

「俺たちは、手を背中に回して膝まずくよう言われた。やつらは暴行を始めた。顔を何度も殴ったんで、血だらけさ。理由は分からないんだ。兵士からタバコをもらおうとした、パトリックの友達が気に食わなかったのかもしれないなあ。」

-"ナザン(22歳Nathan)"  2008年1月、友達がタバコをもらおうと1人の兵士を呼び止めた後、コパスス兵士に暴行された

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