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スリランカ:戦の後の魔女狩りを避けよ

過去の軍事的勝利後の、政府による脅迫と“失踪”は懸念の種

(ニューヨーク)-スリランカ政府は、タミル・イーラム・解放のトラ(LTTE)の軍事的敗北が、新たな"失踪"、非合法殺人、政府批判者の投獄をもたらさないことを確保すべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

内戦中に政府を批判した個人・団体に対して、スリランカ政府が処分を下す準備をしていることが、政府の声明から読み取れる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2009年6月3日、メディア相ラクスマン・ヤパ・アベイワルダナ(Lakshman Yapa Abeywardana)は、LTTEを支援したジャーナリスト、政治家、武装部隊要員、ビジネスパーソンを追訴する準備を、国防省が進めていると述べた。

「スリランカが今最も避けるべきことは、魔女狩りである。」、とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長 ブラッド・アダムスは述べた。「この国には癒しがとても必要だ。政府は、国民全て、とりわけタミル人に対し、彼らの人権を尊重することを明らかにするべきである。」

メディア相の声明に加え、軍司令官のサラス・フォンセカ(Sarath Fonseka)大将は、5月末のテレビインタビューで、政府は、LTTEを利する報道を行ったジャーナリストを渡航禁止処分とし、反逆罪容疑で起訴すると述べた。警察監察長官ジャヤンサ・ウィクレメラトネ(Jayantha Wickremeratne)は、シンハラ人でメディアの自由を求めている活動家(名前は未開示)を、LTTEから賄賂を受け取り、軍の戦争犯罪を示すために偽の報道を行っていたと非難した。

スリランカ治安部隊は、LTTEの拠点を奪取した後、長期にわたり強制失踪や非合法殺人に関与していたと見られている。1995年12月に、政府軍がLTTEから北部の町ジャフナ(Jaffna)を奪還した後の12ヶ月間で、600名以上のLTTEとの関係を疑われていた若者が"失踪"した 。多数の遺体が埋められた場所が幾つか発見されているが、大半の失踪者の消息は今も不明であり、治安部隊が訴追され処罰された事例はほとんどない。

LTTE支持者と疑われた人々の強制失踪や殺害は、2006年末と2007年頭に、政府がスリランカ東部のLTTE支配地域を奪取した際にも発生した。2006年8月に政府軍がLTTEから北東部の町ムートル(Mutur)を取り戻した直後、17名の人道援助要員がマフィアのような方法で虐殺された事件にも、政府治安部隊が関与していると見られている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2008年末に東部で起きた多数の深刻な人権侵害について報告している。

北部、東部、そして首都コロンボで、タミル人が治安部隊構成員若しくはタミル人武装集団の手によって"失踪"している問題は、今も深刻である。

「スリランカ政府は、過去にLTTEの拠点が陥落した際に起きた人権侵害が、再度発生しないことを確保する必要がある。」とアダムスは述べた。「それは、コミュニティー間の信頼関係を構築するのに、非常に重要である。」

25年に及ぶ破滅的な紛争の後、スリランカ政府は5月18日にLTTEに対する勝利宣言を出した。戦闘の最後の数ヶ月間は、推定7000名以上の民間人の死者と、14000名以上の負傷者という、莫大な民間人への犠牲を伴った。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、両陣営による深刻な国際人道法違反を報告した。しかし、人権侵害の完全な実態把握は、政府がメディアや人道援助団体の紛争地帯への立ち入りを制限しているため、いまだ不可能である。

2008年以来、戦闘を避け政府支配地域に逃げることのできた、ほぼ全ての民間人は、スリランカ北部にある政府の強制収容所に送られた。現在、家族全員での収容も含め、約30万の人々がこれらの収容所に拘禁され、労働や他の家族との共同生活などの理由により、自らの権利や移動の自由を奪われている。

ここ数ヶ月において、スリランカ政府は、LTTE戦闘員とみなされた者や、LTTEと関係があったと疑いをかけられた者も9000名以上収容した。国連やその他の国際機関は、収容者を決定するプロセスに殆ど若しくは全くアクセス出来ず、政府は、多くの場合、収容者の家族に何の情報も提供していない。多くの家族は、自分の家族の消息や居場所を今尚知らない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スリランカ政府に、収容されている民間人とLTTE戦闘員両者の安全を確保するよう、強く求めた。この要求は、 LTTE支配地域にいた全ての人々についての情報を登録・公開することと、それらの情報を処理する過程への国際的人道機関の参加を承認することなどを含んでいる。収容されている人々を、速やかに家族及び弁護士に会わせるべきである。

野党政治家らは、スリランカの非常事態令の解除と、LTTE支援者や政府批判者と疑われた者を逮捕し無期限に拘禁するために利用されてきた厳しい対テロ対策法の撤廃を求めているが、スリランカ政府はこれを拒絶している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはスリランカ政府に対し、国内避難民を国連の国内避難に関する指導原則に沿って扱い、彼らの基本的人権を尊重するよう求めた。

「政治的ライバルや批判者、国内避難民化した民間人、捕らえた戦闘員など、全ての市民の権利を尊重する事が、スリランカの将来にとって、長期的に重要な影響を持つという事を認識するべきである。」とアダムスは述べた。

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