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エチオピア/ケニア: レンディション(国家間移送)され行方不明になった被害者たちの消息を明らかにせよ

米国当局者が尋問した秘密拘禁者たちはまだ拘束されている

(ワシントンDC) -「アフリカの角レンディション計画」の対象とされた人びとのうち、少なくとも10名はエチオピアの刑務所に拘禁されたままで、その他にも行方が全くわからない人びとがいる、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。拘束された人びとの中には、2007年の初めにケニアからソマリア、そしてエチオピアへと秘密裏に移送された直後、アジスアベバで米国当局による尋問を受けていた者もいる。

54ページの報告書「『なぜ、私はまだここに?』: アフリカの角地域でのレンディションと失踪者の運命」は、 2007年に行われたレンディション計画についての調査報告書。ソマリアの紛争を逃れてきた少なくとも90人の男女や子どもが、同計画により、ケニアからソマリア、そしてエチオピアへと不法に移送された。同報告書は、エチオピアでいまだ拘禁されている人びとがいかなる取り扱いを受けているか報告するとともに、最近釈放された人びとからその経験を聞き取り(うち幾人かは容赦ない拷問を受けたと言う)、初めて世に問う報告書となっている。  
 
「2007年、秘密裏に行われたアフリカの角レンディションにより捕らわれた大勢の人びとは、あまりにも長い間、静かに苦しみに耐えてきた」と、同報告書の著者であるヒューマン・ライツ・ウォッチの対テロ上級カウンセル、ジェニファー・ダスカルは述べた。「本件に関与しているエチオピア、ケニア、米国の各政府は、方針を完全に転換し、不法レンディションを止め、失踪者の消息を明らかにしなければならない。」  
 
2006年末、エチオピア軍は、ブッシュ政権の支援を受けてソマリアへ侵攻。この軍事攻撃により、ソマリアの首都モガディシュからイスラム勢力が追放された。この戦闘により、何千人の人びとが国境を越えてケニアに避難したが、その中にはテロリストとの関係を疑われる者もいた。  
 
ケニア当局は、ソマリア国境付近で行った軍事作戦の中で、米国、英国、カナダなどを含む18ヵ国以上からの少なくとも150 名の男女や子どもを逮捕し、容疑を明らかにしないままナイロビに数週間拘束。2007年1月及び2月、ケニア政府はそのうち数十名を、家族、弁護人、そして被拘禁者自身への通告もないままソマリアに空路移送し、エチオピア軍に引き渡した。エチオピア軍もソマリアで人びとを逮捕しているが、その数は不明のまま。  
 
こうしてレンディション(国家間移送)された者たちはその後、エチオピアの首都アジスアベバなど数市の拘置所に送られ、事実上行方不明状態となった。被拘禁者たちは自国の大使館、家族、赤十字国際委員会などの国際人道支援機関へのアクセスを拒否され、自宅への電話さえ許されなかった。被拘禁者たちは、後ろ手に手錠という苦痛を伴う体勢で、両足を一つに縛られたまま独房に収容されたという者たちもいる。独房の広さは2メートル四方しかない場合もあったと話している。  
 
こうして拘束された者たちの一部は、アジスアベバで、米国中央情報局(CIA)や連邦捜査局(FBI)の捜査官から尋問を受けた。2007年2月から5月にかけて、エチオピアの警備担当者は連日、被拘禁者たち(妊婦数名を含む)を郊外の施設に移送し、そこで米国当局がテロリストとの関係の容疑で尋問。夜になると、エチオピア人警官が被拘禁者たちを監房に戻していた。  
 
「テロの脅威についての調査というのが米国の言い分だが」ダスカルは述べた。「レンディション(移送)された人びとを外部通信から隔絶して尋問を繰り返しているからには、米国政府も虐待の共犯者であることになる。」  
 
ほとんどの場合、被拘禁者たちは米国捜査官による尋問終了後間もなく、故郷に戻されている。米国当局の尋問を受けたことが判明した者のうち、今も釈放されていないのは8名のケニア人だけだ(アジスアベバにいるもう1人のケニア人は、米国の尋問が終了したとされる後の2007年7~8月にエチオピアに移送された人物)。この8名は、2007年5月以降は尋問を受けていない。ケニア政府が同人らのケニア国籍を長らく認めておらず、また、釈放の確保に向けた措置を取っていないため、送還されていないが、もしこうしたことがなければ、かなり前にケニアに送還されていたであろうと考えられる。  
 
ヒューマン・ライツ・ウォッチは最近、エチオピアに被拘禁中のケニア人数名と電話で話したが、その多くが体調不良を訴え、誰か故郷に戻るのを助けてほしいと切望していた。ケニアのライラ・オディンガ首相はこうした被拘禁者の帰還のために努力すると公約したものの、今日まで進展はほとんど見られない。2008年8月中旬、ケニア当局は初めてこうした被拘禁者たちのもとを訪れた。当局は非拘禁者達に対し、数週間のうちに故郷に帰れると話したとのことだが、それから既に1ヵ月半以上が経過している。  
 
「ケニアの前政府は自国民を強制移送し、エチオピアの刑務所という苦境に置き去りにしていた」と、ダスカルは述べた。「ケニアの新政府は方針を転回し、レンディション(国家間移送)された人びとを故郷に戻し、前政府がとった恥ずべき道はたどらないという意思を示すべきだ。」  
 
エチオピア政府は、レンディション計画を自国政府の利益のためにも利用した。エチオピア軍は長年、最大の敵たるエリトリアを含む周辺国からの支援を受ける、オガデンやオロモといった国内の反政府勢力の鎮圧を目指してきた。エチオピアによるソマリアへの介入や、多国間でのレンディション計画は、こうした反政府勢力との関係が疑われる者を拘束し、尋問するための格好の手段となっているのである。こうした者たちをひとたび拘束するや、エチオピア軍の尋問担当者や監視員は情け容赦なく暴力や虐待を加えたと言われている。  
 
被拘禁者たちの話によると、エチオピアの尋問担当者は、足の爪を引き抜いたり、装填した銃を頭にあてたり、性器を潰したり、両肘・ひざを付いて砂利の中を這うよう強要した。気絶するまで殴られたと報告した者たちも複数いる。  
 
ヒューマン・ライツ・ウォッチの同報告書は、エチオピア政府に対し、レンディション(移送)されていまだ拘束中の人びとを、直ちに釈放、又は、公正な裁判基準に則って訴追するよう求めている。また、ケニア政府に対してはエチオピアで拘禁されたままのケニア国民を本国へ送還するよう確保する手段を直ちに取ること、米国政府に対してはエチオピア及びケニア両政府が失踪した被拘禁者たちの消息をすべて明らかにするまで、両政府に対する対テロ支援を控えるよう求めている。

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