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(ベイルート)-レバノンでは移民の家庭内労働者が不自然な原因で死亡する事例が多発しており、早急に労働条件を改善する必要がある。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日、このように述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、レバノン国内の移民家庭内労働者の状況改善を目的とする公式検討委員会に対し、これらの死亡事件の根本的原因を調査し、死亡者数の低下に向けた具体的な国家対策を策定するよう求めた。

2007年1月以来、少なくとも95名の移民の家庭内労働者がレバノンで死亡している。95名のうち40名は移民の出身国大使館によって自殺と判断された。残りのうち24名は、高層階からの落下事故(多くの場合、雇い主からの逃亡を図る際に発生)が原因である。一方、病気や健康上の問題で死亡した家庭内労働者は14名にすぎない。(なお、ヒューマン・ライツ・ウォッチがまとめた死亡原因の基本情報の詳細は以下の通り https://www.hrw.org/pub/2008/women/Lebanon.MDW.Annex.082608.pdf.)

「レバノンでは、家庭内労働者が一週間に一人以上の割合で死亡している」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの上級調査員、ナディム・ウーリーは述べた。「レバノン当局、移民労働者の出身国大使館、雇用斡旋会社、雇用者など全ての関係者は、何が彼女たちを自殺に追いやったのか、なぜ彼女たちが命がけで高層階から脱出しようとしたのかについて、自らに問うべきである。」

自殺した家庭内労働者の出身国大使館員や友人への聞き取り調査から、強制的な監禁、過剰な労働の要求、雇用主による虐待、そして経済的困窮が、彼女たちを自殺に追い込み、命がけの行動を取らせた主な要因であることが明らかになってきた。

あるフィリピン大使館員は、雇い主から宝石を盗んだと責められたフィリピン人の女性家庭内労働者について、ヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。この女性は雇い主に殴られ、家に閉じ込められた挙句、自殺したという。

その他いくつかの自殺事件の調査の結果、レバノンでは最低賃金法の適用除外となる移民家庭内労働者の経済的圧迫の実態も明らかになった。ネパール人女性サラダ・プーヤルは、2008年3月17日に首を吊った。ヒューマン・ライツ・ウォッチは彼女と同じ家で働いていた別のネパール人にインタビューした。「サラダは落ち込んでいたのよ、だって夫からお金を送れってすごいプレッシャーを受けてたんだもの。彼女の夫は重い病気に罹っていて、サラダが送ったお金はみんな医療費に使われてしまったのよ。彼女、それをすごく気に病んでいたの。だってサラダはそのお金を、子どもを学校に行かせるために使って欲しかったんだもの。」

「こうした自殺は、レバノンで移民家庭内労働者が直面する孤独と困難な労働条件などの結果である」とウーリーは述べた。「レバノン当局が彼女たちに幸福を保証できないなら、せめて以下の権利を保障すべきである - 移動の自由、適正な条件下での労働、友人や家族との連絡、そして生活するのに十分な賃金。」

カイロにあるアメリカン大学のレイ・ジュレイディニ博士が、レバノンの家庭内労働者600人を対象に行った2006年の調査によると、31%の女性が雇い主によって外出を禁止されていた。

自分が監禁されていると気付いた家庭内労働者の多くが、バルコニーや窓から逃げようとした。2007年1月以来、ヒューマン・ライツ・ウォッチは高層階から落下し死亡した家庭内労働者のケースを24件まとめてきた。これに加え、落下し負傷したものの死亡を免れたケースも8件ある。

「多くの家庭内労働者は、強制的な監禁から逃れるため、バルコニーから飛び降りる状況に、文字通り追いやられている」と、ウーリー上級調査員は述べた。

家庭内労働者がバルコニーから落ちて死亡した場合、警察は通常それを自殺として報告する。しかし、この分類は極めて疑わしい。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、バルコニーから落下したものの死亡しなかった2名の家庭内労働者から聞き取り調査を行った。彼女たちは2人とも、虐待を加えたり監禁したりする雇い主から逃げようとしたと述べた。ネパール人のカマラ・ナガリは、2008年2月20日に逃亡を図って負傷した。彼女は病院のベッドでヒューマン・ライツ・ウォッチにこう話した。

「私は二日間監禁されていて、彼ら(雇い主)は食事も水もくれなかった。それで二日後、私は逃げたいと思ったんです。部屋は6階にありました。私は建物の外壁にあったケーブルをつたって降りようとしたんです。でもそのケーブルが切れて・・・そのあと何が起きたのかは覚えていません。」

移民労働者の出身国の大使館の職員たちは、以下の事実認定に同意している。つまり、ある労働担当官の語る「建物からの落下による死亡は、多くの場合、逃亡の試みが失敗に終わった結果」という言葉だ。別のある元大使はさらにあからさまな言い方をした。「ここはもう大使館とは呼べません。いまや葬儀場ですよ。自然死やら事故やら自殺やらで人は死ぬのでね。逃げようとすれば、事故は起きるんです。」

死亡事件の捜査は通常、レバノン警察によって行われるが、家庭内労働者の弁護士や移民労働者の出身国の大使館員への取材と、3件の警察の捜査における捜査記録の精査により、多くの欠陥が明らかになった。まず、警察は雇い主がその雇っていた者を虐待していたかについては必ずしも調べず、仮に調べても一般的な質問にとどめ、雇い主の供述をそのまま受け入れ、その信憑性の裏をとるため隣人や当該家庭内労働者の家族からの証言を得る作業はしていない。また、家庭内労働者が落下したものの死亡しなかった場合、警察は通訳をつけずに事情聴取することが多く、かつ、逃亡を企てるに至った動機については通常、追及していない。「雇い主が誰かを家に監禁していたなら、その雇い主は罪を犯していることになる。警察は、刑事事件として取り扱うべきである」とウーリーは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、様々な関係省庁の官僚、警察、国際機関、NGOなどで構成される家庭内労働者の状況改善を目的とした公式検討委員会に対して、このような死亡・負傷事件の追跡調査を開始すること、そのような事件に対し警察の適切な捜査を確保すること、そして、家庭内労働者の死亡者数の低下に向けた具体的対策を策定することを強く求めた。この対策には、頻繁に行われている強制監禁の撲滅のための対策と、労働条件及び労働法による保護を改善することが含まれるべきである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、移民労働者の出身国政府に対して、困窮する労働者に対してカウンセリングやシェルターの提供を行うなど、在レバノンの大使館やミッションにおける対策を強化するよう強く求めた。

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